赤い温泉とキンキの忘れられない体験 - 湯の網温泉 鹿の湯松屋(北茨城)

湯の網温泉 部屋に飾ってあった鹿の絵
2017年最初の温泉旅に選んだのが、北茨城~いわき湯本にかけてのエリア。鉄(湯の網温泉)→アブラ(五浦温泉)→硫黄(いわき湯本温泉)という、それぞれ異なる個性豊かな泉質を楽しめる旅のコースを、個人的に「常磐ゴールデンルート」と呼びたい。

ここでは初日に泊まった湯の網温泉・鹿の湯松屋の体験記をお届けする。書きたいことがあまりに多すぎて、予想外に長文記事となってしまった。なお、冒頭の写真は部屋に飾ってあった味のある鹿の絵だ。

湯の網温泉 鹿の湯松屋との出会い

温泉通をうならせる赤い含鉄泉

茨城県北茨城市にある湯の網温泉の最寄り駅はJR常磐線・大津港駅。そこから車で10分ほど山側へ入る。とはいえ海側の大津港や五浦海岸からもそう遠くはなく、海の幸が美味しいところだ。

湯の網温泉で営業しているのは一軒宿の「鹿の湯松屋」のみ。ネットでいろいろ調べてみると、ここのお湯はいかにもすごそう。鉄分をこってり含んだ「赤い湯」なのだ。

いくつかの地にみられる洒落た「金の湯」とかいうレベルじゃない、文字通り赤い温泉。シャア専用温泉だ(古いな)。それだけでもう興味津々。

お湯の湧出温度が低いため正確には鉱泉に分類され、加温して供されているが、それでもネット上で温泉通からの厚い支持を受けているのを見るにつけ、期待が高まった。

神経に効く、現代人向けの効能

電車利用の場合は事前に宿に送迎をお願いできる。結構なご高齢の旦那さんが運転する車に乗り込むと、「どちらでウチのことを知りなすった?」と尋ねられた。一見さんは結構珍しいのだろうか。インターネットで温泉通の評判になってますよと答えると、いやあーそんなーと照れくさそうだった。

温泉の効能などについて説明を聞きながら、山林の中へだんだん細く狭くなる道を進んでいく。最後の方はすれ違い困難なくらいの幅だったからマイカー利用の際は注意されたい。

お湯については神経(精神)への効能の実例が知られているとのこと。大学での実証研究があるとも。その点に関しては過去の逸話も聞けてさらに期待が膨らんだ(仕事で精神的に疲れちゃってたから)。

昔ながらの懐かしの湯治宿

宿に到着した。ご高齢だが凛とした感じの女将が案内してくれたのは2階の7畳弱の部屋。トイレ・洗面は共同。最初からふとんが敷いてあった。真冬であったが部屋は電気ファンヒーターで十分に暖まっている。

古き良き湯治宿だから諸設備が今風だったり新しかったりはしない。たとえばテレビは昔ながらの100円玉を入れるやつ。備え付けのティッシュはない。
鹿の湯松屋の部屋
それに内鍵のみで外からは施錠できず金庫もなし。2階の共同トイレはボットンから進化した系の簡易水洗(便座は新しくて綺麗だし1階には新型水洗式もある)。でも特に不都合なところはない。

インターネット環境に関しては、WiFiはないけれども、部屋の中に有線LANの口がある。しかしLANケーブルは見当たらず。持参するか借りるのだろうか。

実はこの旅が先日購入したChromebookのデビュー戦だったが、なんか面倒になって、とりあえずネット環境なしでいいやと、オフラインでのテキスト打ち作業だけをすることになった。


強烈な赤い含鉄泉を体験

大正ロマンな浴室

さて肝心の風呂である。利用時間は朝6時半~夜8時15分まで。終了が早いのは夜間ボイラーを止めるからだろう。ならばのんびり構えていられない。さっそく1階の浴室へ向かった。ちなみに昇り降りの階段は2つあって、遠回りだが普通の傾斜のと最短距離だがかなり急な傾斜のがある。

鹿の湯松屋に男湯女湯の別はなく1箇所のみ。といっても混浴ではなく自主的貸し切り方式だ。入口の扉に2つの札がかけてあって、2つとも裏返しなら誰もいない、「男」または「女」の札が表になっていたら…そういうことだ。男札を表にして中へ入った。

ネットで見かける評判通りの、大正ロマン風の浴室がお出迎え。メインの壁面に滝と鹿3頭の絵が描かれ、上の方はステンドグラス風のガラスが張られている。

別の壁面には山羊の角風の花瓶に飾られた花。他の細かい作りも全般に昔の洋風を感じさせるセンスになっている。

入る前からビシビシ感じる「鉄」

洗い場は2つあって、蛇口からはもちろん普通のお湯が出てきます(温かい湯が出てくるまで少し時間がかかる)。リンスインシャンプーとボディソープが置かれているあたりは普通にしっかりしている。

左手奥には大きなポリ浴槽がでんと鎮座して、赤サビというか暗枯れたオレンジ色のお湯を湛えていた。いいねー。

浴槽や壁の一部にその色がこびりついており、鼻をつく金気臭といい、鉄の存在感がとにかくすごい。お湯は熱めなのか湯かき棒が置いてあった。

意外とおとなしくて入りやすい、温まるお湯

さあ浴槽へゴー。…これが強烈な赤い鉄の温泉かあ…。お湯自体は入ってみるとそんなに熱いわけじゃない。ちょうどいい温度だ。

見た目からは鉄粉や錆でジャリジャリしたイメージを持つけれども、全然そんなことはなくて感触は普通のお湯と変わらない。しかしほぼ不透明で浴槽の底はまったく見えない。

見えない浴槽の底は出だしが浅くて奥が深い2段構造になっているので転ばないよう注意したい。鉄成分は深いところに沈殿しているらしく、そこに手をつくと手のひらに赤サビ色の粉が付着した。お尻をつけばお尻にも付着するだろう。別に不快な感触はないし簡単に洗い流せるから心配は無用。

当日の泊まり客は自分一人だけとみられるから、気兼ねなく温まりの良い湯にじっくり1時間近くもつかった。

ふだんは「温泉なら最後シャワーで洗い流さずに出る派」なのだが、迷ったあげく、軽く洗い流してから出た。下着やふとんシーツを汚さない用心のためには、少なくとも手のひらと足の裏とお尻は洗い流したほうがいいだろう。

温泉の効能キター

入浴後にテキスト打ち作業を進めていると、20分くらいして急に気分が落ち着いて時間感覚が妙にスローになってきた。擬音で表現するなら「ずーん」。なんだこの感覚は。

ただ単に風呂の後で眠くなっただけ? でも実際眠くはないのだ。覚醒しつつもハイな気分の真逆の感じ。こいつは湯の網温泉の効能による鎮静作用だということにしておこう。

夜の風呂はミステリアス

夜の終了時刻近くにも入浴したが、怖がりの人にとって夜の浴場はちょっと「くる」かもしれないなと思った。

本当に静かな宿で、お湯の中でふと気づけば、夜の静寂に包まれた一軒宿の浴場にただ一人。ボイラーのグワングワンといううなり音だけが聞こえてくる。

室内は暗く、灯りといえば出入口の横に小さなランプがぼうっと1つだけ。その横には大きな鏡がひたすらに暗闇を映している。

壁面の花瓶のそばには温泉の効能を手書きした紙が貼ってあり、独特の書体で第1の効能に「」と記されている。言葉のインパクトがなんかコワイ。

大正ロマン風とあわせて、なぜだか「江戸川乱歩」とか「金田一耕助」というワードが浮かんでくるのであった。読んだことないけど。


自慢のキンキに舌鼓

これがキンキか…うまい、うまいぞ!

鹿の湯松屋の食事は、その宿泊料金からすると、とてつもない大サービスである。高級魚のキンキやヤナギガレイが惜しげもなく供されるのだ。

まず夕食はキンキの塩焼き。ちょっと骨っぽくも見えるが、パリッとこんがり焼かれていて、全部丸ごと食べられるそうだ。
鹿の湯松屋のキンキつき夕食
身に脂がよく乗っていて外はパリパリ・中はジューシー。塩味がきいて、こいつはうまい、うまいぞ。しっかり焼いてあるから、たしかに頭や尻尾も噛み砕いて食べられる。

バリバリボリボリと夢中になって、背骨と目玉といくつかの固い小片を除いて結局すっかり食べ切ってしまった。いやあうまかった。

あとはカニと刺身盛りと山かけとあさり汁に煮物。煮物以外は海産物オンパレードで大満足。木のお櫃に入ったご飯も量の問題で残しはしたが美味しゅうございました。

朝にはヤナギガレイ

朝食はヤナギガレイがメインであとは素朴。こちらも美味しくいただいた。味噌汁の量がもう少しあるとよかったかな。茨城自慢の納豆を残してスイマセン、苦手なもので。
鹿の湯松屋のヤナギガレイつき朝食
帰りにはおみやげにワカメをいただいた。五浦まで車で送ってもらう車中では旦那のぶっちゃけトークあり。お湯・食事・設備・応対いずれも個性的(良い意味で)な楽しい温泉宿だった。


スパムに負けるな、貴重な個性宿

最後に湯の網温泉「鹿の湯松屋」の予約の現状について注意しておきたい。

手軽にネットから予約したい人は少なくないと思うが、楽天トラベルだと予約可能なプランがない。じゃらんだとプランがありそうに見えて予約受付停止中と思われる対応になる。

そこで宿のホームページをのぞいてみると、「スパム被害のためメールの利用を当面停止。予約はお電話で」の旨が掲載されている。

自分は鹿の湯松屋のホームページに示されている番号に電話を入れて予約した。高齢のご夫婦だけで切り盛りしているため、時間によってはつながりにくい。うまくつながらないときは時間をずらすなどして根気よくチャレンジしよう。あと月曜と火曜は休館日(応相談)なのでスケジュールを組む際は注意。

ともかくぜひ一度体験していただきたい温泉と宿。いつまでも語り草になることうけあいだ。

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