ほんとの空が見える町の割烹的湯宿 - 智恵子の湯(安達)

二本松 智恵子の湯
急に寒くなった秋の福島遠征は、大した準備期間もなく突然決めたせいか、めぼしい温泉地の旅館はほとんど埋まっていた。金に糸目をつけない身分なら高級宿に空きはあったが、値頃感のある宿は全然見つからない。紅葉行楽シーズンの繁忙期ってことですかね。

未練がましくいろいろ検索していたら…ん? ここはなんだろう。温泉地というのでなく二本松市安達の町中に1軒だけ営業している智恵子の湯。一人泊OK・2食付き・お高くない。救いの神現る。

もともと割烹だったみたいで料理面は期待できる(実際に口コミも高評価)。お風呂は小さめながら、なかなか本格的な鉄要素の強い濁り湯らしい。実は穴場かもしれん、と体験してみることにしたのであった。

智恵子の湯へのアクセス

初めて安達の地に降り立つ

智恵子の湯の最寄り駅はJR東北本線・安達。岳温泉の玄関口となる二本松駅の隣だ。新幹線が停まる福島や郡山から在来線乗り換え1本だから、まあ行きやすい方でしょう。駅からは徒歩20分。

鎌倉殿の十三人に出てきた藤九郎=安達盛長の姓がここの地名から来ているとする説があるし、智恵子抄の高村智恵子は安達の出身だ。安達駅前には智恵子モチーフの像がある。
安達駅前の像
時系列的にはまず磐梯熱海の霊泉元湯へ立ち寄り入浴した後、磐越西線→東北本線を乗り継いで安達まで来た。天気は小雨。パラパラと降り出したところだ。霧雨のようなレベルだし、徒歩20分なら傘なしで強引にクリアできるでしょう。怖いのは熊だけ。熊が市街地にいるわけないだろ! なんて甘い考えのレーン・エイムじゃハサウェイの思う壺。油断大敵・警戒MAXで。

智恵子の生家・記念館が徒歩圏にある

チェックイン可能時刻までずいぶん余裕があったので、いったん宿を通過して、さらに10分ほど歩いて智恵子の生家・智恵子記念館まで行った。表の道路に面する側は彼女の実家だった酒蔵の雰囲気が残されている。
表通りから見た智恵子の生家
脇の路地から中へ入る。見学料は410円。
智恵子の生家・智恵子記念館入口
まず生家の中を見学しよう。
智恵子の生家
なかなか裕福な家だったんじゃない。「なに不自由なく育った」と説明に書いてあったし。ちなみに室内撮影OKかどうかよくわからなかったから中の写真はありません。記念撮影コーナーの1枚のみ。
記念撮影コーナー
庭も立派ですな。
智恵子の生家の庭
生家の次は記念館。紙絵を中心に高村智恵子の作品が展示されている。少なくとも地下の展示フロアは撮影禁止。
高村智恵子記念館
アートの素養がないので特にコメントできないけど、たしかに紙絵は良かった。見学が終わったらチェックインできる時間になっており、すぐに当館へ直行した。


本館と新館がある智恵子の湯

料理への高まる期待

ではチェックイン。フロントとロビーの様子がこちら。
フロントとロビー
反対の側にはアルコールでない飲料自販機と日本酒の自販機がある。
各種観光案内や新聞を置いたテーブル
フロントで軽く説明を受けて部屋のキーを受け取る。この建物は新館で、一般の客室は新館2階にある。ほかにビジネス客向けのトイレなし1~2名向け客室が隣の本館1階にあるようだ。

今宵の部屋は新館2階。階段の途中に、もともと当館が「割烹かねすい」を名乗っていたことを窺わせる看板が置いてあった。夕食を期待しちゃうね。
割烹かねすいの看板
ネットで検索すると、二本松に「かねすい」を名乗る飲食・宴席系の施設がいっぱいヒットする。地域の系列グループなのかな。

スペックは十分な新館の部屋

2階に上がると共同冷蔵庫や談話スペースらしき一角が見られる。
新館2階の談話スペース
客室は8畳+広縁っぽい板の間和室。布団は最初から敷いてあった。
智恵子の湯 新館8畳客室
シャワートイレ・洗面台あり、金庫なし、冷蔵庫なし(廊下に共同のがある)、WiFiあり。壁紙など古くなってきている箇所はあるが、全体としてはよく手入れされていて問題なし。トイレと洗面台は結構新しいよ。コンセントは少なめ。

部屋は正面玄関・駐車場を向いており、窓から見える景色はこんな感じ。田園や山林というわけではなく普通の町の風景である。
窓の外の景色

町中に湧いているのが不思議なタイプの温泉

本館側にある小ぢんまりしたお風呂

チェックイン時に「このあと他のお客様も次々いらっしゃいますから、空いている今のうちにお風呂をどうぞ」と、おすすめされていた。お風呂が小さめなのは事前調査で知っていたのと、つねに満員満員で入浴ノーチャンスという悲しい想像が脳裏にちらついたこともあって、チェックイン直後すぐに行動開始。

智恵子の湯のお風呂は1階本館寄りにある。新館と本館を結ぶ通路の入口に分析書の立て札があって、メタケイ酸の成分をもって認定された温泉法上の温泉だった。療養泉でないため泉質名はない。「低張性、中性、冷鉱泉」の泉温19.1℃、PH6.3。書いてないからはっきりしないが加温・循環・消毒ありじゃないかという気がする。

新館から通路を進むと、本館に達したと思われるところに、通路を挟んで男湯と女湯があった。脱衣所はやっぱりそんなに広くなくて脱衣かごは5名分ほど。張り紙によれば入浴できる時間は夜22時までと朝は8時から。あと「入浴は1時間まででお願いします」と書いてある。

赤茶色の含鉄泉のようなお湯

浴室にシャワー付きのカランは2台。予想通りに浴室は小さめだ。同時に3名までかな。お仲間同士でも4名。5名以上は無理矢理感が出てくる。その意味ではシャワー付きカランは2台で十分といえる。当時は先客が1名、まもなく先客が去って独泉となり、しばらくしたら別の1名がやって来た。

小ぶりな浴槽は余裕を持つなら2名まで、でもまあ3名ならいけるし、全員が意識して縮こまる体勢を作れば4名入れるサイズ。一番奥の湯口付近は陣取れるように見えて不可。濁り湯で見えない部分に柵があって奥まで行けないからだ。温泉を投入するための領域だと思えばいい。その湯口は典型的なタイプではなく、ふだんは隠れていて、タイマーかセンサーか何かで必要な時を察知したらジャーッと吹き出すやつ。

お湯の見た目はオレンジ色の印象すら与える、赤みのある茶色。なんだか有馬温泉を思い出すなあ。完全に濁っているので浴槽の底、いや一寸先まで、まるで見えない。浸かってみると適温だった。そんなに熱く感じないおかげで意外とじっくり粘ることができる。いいんじゃないですかね。

色だけじゃなく匂いにも特徴あり。嗅いでみたら金気臭が強かった。見た目との合わせ技で含鉄泉だと言われても信じてしまうレベル。浴槽まわりの壁には石片がはめ込まれ、ちょっと岩風呂ムードを感じなくもないが、その石片は温泉成分で赤黒く変色していた。浴室の床面にも赤茶けたところがある。そりゃそうなるわな。

チャンスとみたら入っておけ

窓が十分に大きいもののすりガラス風なため外の景色はくっきり見えない。立地を考えたら内外互いに見える関係になってしまう方がまずいだろう。

チェックイン直後の時は混んでなかった。夕食前に行った時も最初が独泉状態で後から1~2名加わった程度。ところが夕食後を狙った際は、複数名の賑やかな会話が外に漏れていたので遠慮して、間をおいて行ったら相変わらず、さらに間をおいて行っても相変わらず…という具合で21時すぎにやっと入れた。

朝食後のラスト入浴も同様だった。何度かトライしてようやく入れた。団体さんが泊まってたようだから、数名ずつかわりばんこに入ってたのかもなあ。ということで「○時○分と×時×分に入ろう」などと自分の都合で決め打つよりも、チャンスがあれば見逃さず、入れる時に入っておきましょう。


さあ来い、割烹の味を待ち受ける

夕食はしっかりした内容の料理と地酒を楽しむ

智恵子の湯の食事は朝夕とも新館1階の食堂で。※新館宿泊プランの場合。

夕食は18時半スタート固定。食堂へ行くと部屋番号に対応した各テーブル席にスターティングメンバーが用意されていた。多すぎず少なすぎずでちょうど良さそう。
智恵子の湯の夕食
天ぷらは着席後しばらくしてから登場したもので温かいうちにいただける。写ってないけど天つゆもあります。お米系は寿司二貫だけなんてことはもちろんなく、別途セルフサービスの白米が用意されている。台の物はすき焼きというかなんというか。

グルメ評論するほどの舌は持ち合わせてない。でもどれもしっかりした料理で大変結構にございます。お酒を飲まないわけにはいきませんな~、とメニューを探そうとしたら、日本酒お銚子1本がサービスで付いてくるという。どうやらそういうプランを予約していたらしい。すっかり忘れてた。

地酒の大吟醸がおすすめとのことで、それをいただいた。銘柄を確認しそびれたのは痛恨。当然ながら味で判断できるはずもない。二本松でよく聞く名前だと奥の松とか?…ほろ酔い加減になった頃、すき焼きができあがり、お吸い物とデザートも運ばれてきてこうなった。
智恵子の湯の夕食その2
まだまだ楽しめるね~。味わい良し、完食してみればボリュームも十分、締めのご飯は一膳だけでもうお腹が苦しくなった。いやあ良かった。ごちそうさま。

珍しくご飯をおかわりしちゃった朝食

朝は7時・7時半・8時の選択肢から8時をチョイス。後から考えたら、朝風呂が8時開始なんだから7時台を食事にあてるのが最適行動だったな。まあいいや。前夜と同じ席にて。
智恵子の湯の朝食
基本に忠実なメニューがむしろ良い。包みに入っているのは飯坂のラジウム玉子…ジャンルでいうと温泉玉子だ。味噌汁は多めに入れてくれてありがた山。ご飯・水・お茶はセルフでお願いします。

いい意味でコンパクトな内容だから、逆に余裕ができて珍しくご飯をおかわりした。これ重要。米高騰の折、やってやったぜな満足感が強い。食後にはセルフのコーヒーも用意されていて抜かりなし。

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福島県で一般に知られる温泉地の中に名前を連ねることがなく、まさにノーマークだった智恵子の湯。この機会に見つけたのも本当に偶然だった。なんとなく直感が働いて泊まってみたのだが、食事面はさすがにしっかりしているし、少なくとも新館であればハード面はOK。対応も丁寧で安心感あり。

肝心の温泉面は予想以上に本格的な鉄を感じさせる濁り湯で満足度は高い。お値段以上といえる宿だ。宴会メインの団体旅行でもいいんだけど(もともと割烹だし)、お風呂が小さめだから1~2名でのんびりするための旅行で使うのが向いてそうに思う。