もうすぐ見納め?! 湖底に朽ちゆくタウシュベツ川橋梁

タウシュベツ川橋梁
タウシュベツ川橋梁…見慣れないはずの言葉になぜか心ひかれるものがあった。これ絶対ロマンいっぱいのやつだぞ。帯広遠征を計画した際に東大雪エリアまで行ってみようと思って調べていたらたまたま目にしただけなのに、不思議と確信があった。

ふむ、旧国鉄士幌線にタウシュベツ川橋梁という橋があり、糠平ダムの建設によって廃止されたルートに含まれていたのだな。ダム湖の水に浸かってどんどん朽ちつつある姿が逆にエモーショナルで幻想的だと。近年は映えスポットとして人気を集めていると。おもしろい、見てやろうじゃないか。

うまいことに糠平温泉から出発する橋見学ツアーの企画があった。ツアーに参加してから糠平の温泉に泊まればちょうどいいな。よし決まり。

幻の橋を目指して

不運パターンの天気予報は気になるが…

旅の2日目、帯広の街を出て然別湖経由で糠平までやって来たらもう午後のいい時間。この地域の当日の天気予報はおおむね晴れ。しかし正午すぎから夕方にかけての2〜3時間のみ、まさにツアーの最中だけが雨予報という、針の穴を通すような自然さんのピンポイント嫌がらせには怒りしか湧いてこない。

ええいもう、なるようにしかならん。集合場所である糠平温泉文化ホールに着くと、駐車場の奥に鹿の親子を発見。これは吉兆か。そうだそうだそうに違いない。
鹿の親子あらわる
集合場所には予想していたより多くの人が集まっていた。総勢25名くらい。ひがし大雪自然ガイドセンターが主催する「旧国鉄士幌線アーチ橋見学ツアー」が正式名称。参加費4500円。傘と長靴は貸してくれる。参加者は長袖の人が多く、半袖の自分は北海道の気候をなめすぎたかなと思ったけど、結果的には問題なかった。

素人が挑むにはハードルが高い林道区間

出発前に長靴に履き替えて、数台の車に分乗して出発。現地までは30分近く走ったかな。まず10分ほど国道を北上する。途中で通過したタウシュベツ展望台入口に車を置いて100mほど森の中を歩くと、展望台から1km先に橋を望むことができるらしい。ツアーに参加する余裕のない方はそういう手もある。

国道を外れてから現地までは未舗装の狭隘林道だ。その林道を走るには入口ゲートの鍵を開けなければならない。一般人がふらりと来ても入れない。道の駅かみしほろで一般向けに鍵の貸し出しをしているが、激しい争奪戦によりすぐ予約済みになってしまうそうだ。

だからって歩くのは無理筋だぞ。林道区間が4kmくらいあるし、近辺はヒグマの目撃情報がいっぱいだ。素直にツアーに参加することをすすめる。道中いろいろ解説してくれるし。


ロマンあふれるタウシュベツ川橋梁をこの目で見た!

いよいよタウシュベツ川橋梁とご対面

車を降りてから5分くらい森の中を歩くと、急に視界が開けた。糠平湖だ。現地〜北方向にかけての水位はだいぶ下がっており、湖底が結構むき出しになっている。
干上がった糠平湖
空はやっぱり降り出してきそうな雰囲気だな…頼む、最後までもってくれ。肝心の橋もすぐそこにあるのだが、真正面だと気づきにくい。
橋はどこにある?
もっと近づいて、見る角度をずらすとはっきりする。おおこれか。
タウシュベツ川橋梁
よくネットや観光パンフレットに出回っている写真だと橋の半分が水に浸かっているが、やはり湖の水位がかなり低下しているため、根元までの全貌がはっきりくっきり。丸裸ってやつだ。

干上がった湖の底を散策する

ここで40分ほど自由時間。まあたいていはガイドさんに付いて解説を聞きながら、干上がった湖底を歩き、橋の向こう側を通ってぐるっと一周することになる。いつ崩壊してもおかしくないため橋桁には近寄れないし、もちろん橋を渡ることもできないものの、これくらいの写真なら撮れる。橋の端。
橋の端
もぉーうボロボロだわ。
ボロボロの橋
自由時間は基本的に散策しながら橋の写真を撮りまくることになる。
水に浸かっていないタウシュベツ川橋梁
一方で橋を背にした「水が少なすぎて枯れてしまった糠平湖」の風景もなかなか味がある。
水が少なすぎて枯れてしまった糠平湖
冬の糠平湖はワカサギ釣りの名所だそうな。当時もすっかり浅くなって小川のようになっているところにワカサギの群れを確認できた。なお、こういう水場を歩いて渡るために長靴が必要になる。
ワカサギの群れ
現地より南側は多少の湖水を蓄えていた。もっと水位が上がると、この日のような散策は不可になるんだろうな。ある意味でレアな時に来たかも。
なんとか水を保っている糠平湖

いつ崩れてもおかしくない、見るなら今のうち!?

橋の向こう側に着いても撮影するのはやっぱり橋。視点が変わるだけでも表情が違ってくるような気がする。
反対側の端付近から見た橋
これなんか遠景の山とセットでいいね。もっと晴れて明るければ…結局雨は降りそうにないのがせめてもの救いか。
橋と大雪山系
橋がボロボロでいつ崩れてもおかしくないことを間近に示すのが次の写真。ガイドさんは来年には崩れてるんじゃないか、と言ってた。訪れたのがまさにラストチャンスだったりして。冬にしみ込んだ水が凍って膨張する時の力で内部から破壊されているとのこと。
いまにも崩落しそうな橋
さあ一周して元に戻ってきた。タウシュベツ川橋梁の見学はここまで。長靴から自分の靴に履き替えて(車に積んであった)、車に乗って林道を戻りゲートを出る。


栄枯盛衰の幌加駅跡

線路跡を歩いて進む

しかしツアーはまだ終わりじゃない。さらに国道を北上して第五音更川橋梁跡まで行った。ただし車内からのチラ見なので写真は撮ってません。水に浸かっていない分だけ「普通の朽ち方」で特別感はないけど、紅葉シーズンにはタウシュベツ以上の見どころだとか。

あとは糠平方面へ戻りながら途中で幌加駅跡に立ち寄った。車を除雪ステーションに止めて現地まで100mくらい線路跡を歩く。レールが撤去された遊歩道の道端はフキがすんごい茂ってる。どこかにコロボックルが隠れてるんじゃないの。
生い茂るフキ
駅跡が近くなると復元されたレールが現れた。
復元されたレール
ちなみにポイントを自分で切り替えることができます。切替器のバーに体重をかけるようにして、かなり力を込めないと動かない。腰をグキッとやりそうで自分は遠慮しておいた。
ポイント切替器

自然に還る幌加集落

このあたりから幌加駅のあった領域が始まる。これは駅のトイレ跡だって聞いたな。
トイレ跡
ついに幌加駅のホームまで来た。昔はそれなりの規模の集落があったのに、ずいぶん前に消滅してしまって、今は森に飲み込まれつつある。なぜだかナウシカを連想した。
幌加駅ホーム跡
さあ車に戻りましょう。さらば幌加駅。
幌加駅跡
あとは糠平の集合地点に戻って解散。所要時間は2時間半くらい。タウシュベツ川橋梁に興味を持っても自分ひとりだったら絶対に行動に移さなかっただろう(鍵争奪戦のハードル・狭い未舗装林道を運転するハードル・熊出没注意のハードル)から、ツアーの存在は渡りに船だった。

奇跡的に稀な外観と経緯を持つ橋を現地現物で見ることができたのは貴重な経験。旅の目的は温泉めぐりだったけど、それに匹敵するメインテーマをクリアしたかのような達成感を覚えたのである。