宮崎県との境に近い鹿児島県湧水町の吉松温泉郷にはモール泉を特徴とする温泉場が点在する。そのうちのひとつに鶴丸温泉がある。JR鶴丸駅の目の前という、まさに駅前温泉だ。まあ今回は車の旅でしたけどね。最終日に人吉から鹿児島空港へ向かう途中にちょうどいいと思って立ち寄ることにした。
ジモティー色の強い温泉銭湯で、のんびりと湯浴みを楽しんだ(日帰り専用かと思ったら宿泊もやっているようだ)。典型的な匂いと黒っぽい色をしたモール泉で、内湯はぬるめ・適温の湯船、露天風呂はあつ湯+水風呂の交互浴で幸せになれる。
館内はジャズの曲が流れて軽妙な気分にさせられるし、お湯は良好だし、とても楽しい時間だった。気に入った。
鶴丸温泉へのアクセス
駅からすぐだが列車の本数には注意
鶴丸温泉の最寄り駅はJR吉都線・鶴丸。駅を出たら目の前が鶴丸温泉。簡単ですね。とはいえ吉都線の運行本数や遠方から列車を乗り継いでどうやって行くかを考えると、ことはそう単純ではないだろう。鶴丸駅で降りて、温泉に入り、また列車に乗って次の目的地へ、がスムーズにできるかどうかが課題。
自分はレンタカーだから柔軟に行動できた。熊本・山江温泉ほたるをチェックアウトした後、錦町の「にしき ひみつ基地ミュージアム」を見学してから鶴丸温泉へ。国道268号を走っていると看板が出ているので迷うことはない。国道を外れてから現地まで狭めの道が続くけど短い距離だから問題なし。
見学スポットと組み合わせるなら丸池湧水へどうぞ
こうして人吉~えびの経由で南下するルートだったが、鹿児島市街や鹿児島空港から北上して向かうパターンも多いだろう。もし高速を使わず下道で行くなら、途中で霧島山麓丸池湧水を通ることになると思う。見学スポットとしてちょっと紹介。※自分は鶴丸温泉の後に見学している。
丸池湧水は肥薩線・栗野駅のすぐ近く。日本名水百選に選ばれている水のきれいな池だ。
周辺は広い公園になっていてあちこち散策できそう。しかし時間の都合により小高い地点まで登って池を展望するだけにしておいた。水は非常に澄んでいる。
水汲み場があってポリタンクに汲みに来ている方がちらほら。試しに飲んでみたら、うん、霧島のおいしい水ですね。湧水町の名前にふさわしいスポットだった。
無人の鶴丸駅
さて、鶴丸温泉に着いたら意味もなく鶴丸駅を偵察してしまった。ローカル線の小さな駅。1日の乗降客数は10人前後とみられる。
駅前は特に開けているわけではない。当湯とデイサービスと、あとは菅原神社というのがあったくらい。
ふーん。よし、じゃあ鶴丸温泉に突撃しましょうかね。
黒いモール泉を湛える2つの内湯風呂
昔ながら風の浴室に本格モール泉の湯船が
ジモティー色が強いといっても九州八十八湯めぐり企画の対象施設になってる特選クラスの温泉だから、遠方からの訪問客には慣れていると思われる。奇異の目で見られることもなく受付をすませた。300円。値上げしましたと張り紙してあって300円か。安い。
そのまま廊下を進んで男湯へ。脱衣所にも廊下にも分析書は見当たらなかった。玄関の前に掲げてあった昭和時代の手書きの成分説明によれば「純重曹泉、緩和性低張高泉」。あとはネット調査からの補足で、内湯は加水、露天は加水なし、循環たぶんなし、消毒は不明。
浴室にはシャワー付き3台とシャワーなし4台のカランが交互に並ぶ。試しに使ってみたらお湯が出て来ねえっす。先客のアドバイスによれば、お湯が出にくいから湯船のお湯を使った方が早いとのこと。シャンプー・石鹸の類も置いてないし、このあたりは昭和レトロな銭湯だ。
内湯は2つの浴槽による変則8の字というか、楕円形の浴槽2つを少しずらしてくっつけたような形になっている。どちらも黒に近い濃い褐色のお湯で満たされている。色の濃さが違うのは深さの違いじゃないかな。黒さがより際立つ方へ入ってみたら適温だった。4名規模で若干深め。
浅くてぬるい方でゆったりハッピータイム
比較のためすぐに出て、隣の茶色みが混じってるお湯の方へ入ってみたらぬるかった。ぬるいのが好きなので以後はこちらへロックオン。楕円の半分はそこそこの深さで残り半分は寝湯に近いくらい浅い。こちらは構造的に3名が妥当。
匂いは典型的なモール臭。なんだか癖になってついクンクンと嗅いでしまう。そして感触的には若干ぬるっとしている。自分は南関東の黒湯で同じような泉質を何度も体験しているから、あらためて衝撃を受けるようなことはないけど、色といい匂いといい、腐卵臭の白濁硫黄泉なみに個性ありまくりのお湯だ。
しかもぬるいってのがいいやね。独占状態の中、浅いところで仰向けに近い体勢になっていると、朝ふとんの中で微妙にぬくぬくしているようで幸せこの上なし。頭を乗せる場所が難しいので完全に寝湯のようにはいかないが。
湯口にはコップが置いてあり飲泉できるようだ。洗い場の壁には銭湯にありがちな富士山…ではなくて鶴の絵が描いてあった。いや、鷺か孔雀のようにも見えるが、たぶん鶴だろう。鶴丸なんだから。
すばらしき露天風呂を見逃すな
源泉露天風呂と水風呂の交互浴がたまりません
先客のアドバイスにより露天風呂の存在を見逃さなかったのはラッキーだった。何も知らずに来たら絶対に気づかないぞ。内湯の奥に成人身長の半分くらいの高さの扉がある。そこが露天風呂への出入口だとは思うまい。腰をかがめて頭を下げて扉をくぐると露天エリア。
1名用の水風呂と4名規模の屋根付きの真四角な木の浴槽があった。湯口にはコップあり。投入されるお湯はいったん金属製の丸形ざるを通して不純物を濾すようになっていた。
では浸かってみよう。あちい。これはもうあつ湯と呼んでいいだろう。内湯と違って長く居座ることは難しい。しかし源泉そのまま感は一番強い。かなりいいお湯だ。せっかく来たなら露天風呂で鶴丸温泉の真髄をしっかり受け止めないともったいない。
それに水風呂と交互に入ると最強に気持ちいい。水風呂も慣れていないとなかなか大変だが、頑張って数分でも浸かってクールダウンしてから露天風呂へ戻ると…アツクナーイ! 冷温交互浴のこの感覚がたまりませんな。朝ドラなにわバードマンみたいに舞いあがっちゃうよ。
ジャズをBGMに
露天風呂の屋根に取り付けられたスピーカーから軽快なリズムのジャズが流れている。内湯にいても聞こえてくる。このBGMがまた気分を楽しくさせるよなあ。朝ドラカムカムのトミー北沢を思い出すぜ。
露天エリアは特に眺望があるわけではないけど、そんなのは大した問題じゃない。ひやあつの繰り返しが癖になるグッジョブなお風呂だ。そしてぬるい内湯と行き来していると時間を忘れてしまう。あっという間に次へ向かう予定時刻になった。
いいお湯だったのはもちろんのこと、去り際に自然と出てきた感想は「楽しかった」。心身ともにすっかり健康になって鶴丸温泉を後にした。