鯉料理が自慢のメシウマぬる湯宿で極上気分 - 加久藤温泉

加久藤温泉
宮崎県の西端、もうちょっとで熊本県や鹿児島県になってしまうロケーションに京町温泉がある。宮崎県の温泉宿に泊まることも旅の目的のひとつだったから、京町温泉付近で旅館を探してみると、加久藤温泉という宿が目に留まった。正確には京町温泉に分類されない一軒宿のようだ。

ポイントになったのは、自分好みのぬるい浴槽があるという口コミと、鯉料理を売りにしているという点。ぬる湯でリラックスした後は鯉を肴に酒を飲む。いいじゃないですか。期待が膨らみますな。

お風呂は比較的温かいやつと本当にぬるいやつの2つがあり、うまく入り分けると幸せになれる。そして鯉料理はさすがの出来。他の料理も含めて味良し。

加久藤温泉へのアクセス

鉄道でも車でもそれなりの心の準備を

加久藤温泉に列車で行こうとすると結構厳しいのではなかろうか。アクセス路線となるJR吉都線の本数はかなり限られる。また、京町温泉駅下車だと6km以上離れていてとても歩ける距離ではない。えびの駅なら3kmだから小一時間でなんとか。タクシーに頼らないのであれば、それなりの覚悟が必要だ。

自分はレンタカーだからそのへんは気楽である。鹿児島空港を出発し、高原町の湯之元温泉小林市のコスモス温泉を経て加久藤温泉へ向かった。みやまきりしまロードという広域農道経由でコスモス温泉から30分ほど。

お気楽気分ですまなくなるのは現地が近くなってからだ。運転が得意でないという方にとくに注意してほしいのが、加久藤温泉付近の道路はすべて狭い。どこをどう走っても最後は1.5車線どころか1.1車線くらいの狭い道を行かされる。

何を言ってるかわからないと思うが、一応のアドバイス

運良くこの事実に計画段階で気づいたので、どう行くのが一番苦難が少ないのか、グーグルストリートビューを駆使して散々研究した。

導き出された結論…現地が近くなったらカーナビが最短コースを指示しても無視。できるだけ広域農道や片側1車線の道路を選んで走る。長江川沿いから1本西側の、県道53号からT字分岐して南下する道路は片側1車線あって頼りになる。で、加久藤温泉になるべく近い地点で長江川沿いの道に入る。うまくすれば温泉の看板が誘導してくれる。

そこからは細い道になるけど川沿いで見通しが良いのは救い。ゴールまで1kmくらいだから対向車が来ないことを祈って走り切るのみ。あと少しだ頑張れ。

このようなバス停風のオブジェが立つ駐車場まで来たら無事ゴール。お疲れ様でした。
バス停風のオブジェ

昭和レトロと和モダンが同居する旅館

鯉の養殖池と滝を持つ庭園

玄関前に鯉の養殖池があり、人工的に作ったミニ滝なんかもある。後に聞いた話では先々代が手作りしたんだそうだ。もはやプロの庭師ですわ。
鯉の養殖池とミニ滝
ではチェックイン。家族経営的な雰囲気の小規模宿で全体に昭和レトロな風情を漂わせるが、ところどころ和モダンなパウダールームがあったり、お洒落な和のテイストできれいに飾り付けられていたりする場所があったりして、単なる古い宿ではない。こちらがロビー。
ロビー
廊下の一部はガラス面になっていて池を素通しで覗き込める。泳いでいるのは鯉ばかりでなくチョウザメもいるらしい。
池を覗き込める廊下

部屋からも見える鯉の池

案内された部屋は2階の6畳和室。一人旅には十分だ。布団は最初から敷いてあった。
加久藤温泉 6畳和室
洗面台は室内に備えてある。
部屋に洗面台付き
トイレは共同。2階には女子トイレと男女共用トイレがあり、後者は男性用小×1とシャワー付き便座の個室×1。この個室にはドアがないのだが、トイレそのものに鍵付き扉があるから問題なし。でないと男女共用にできないもんね。あと1階にも男女別トイレがあります。

部屋の話に戻ると金庫なし、冷蔵庫なし(2階に共同冷蔵庫)、WiFiあり。窓の外は池。
窓の外の景色
…うーん、木しか写ってないな。実際にはもっとちゃんと池が見えた。このように当館は池に囲まれた宿、池の上に立っているような錯覚に陥る宿なのである。


ついこっくり眠ってしまう極楽ぬる湯

本格温泉を意識させる匂い

加久藤温泉の大浴場は1階の奥。途中の廊下に写真が飾ってあって、カワセミ・ヤマセミ・フクロウが写っていた。いずれも近所で撮影されたっぽい。自然がいっぱいじゃないの。

男湯と女湯は入れ替えなしの固定。小さな町の共同浴場のようなノスタルジックな雰囲気が漂う脱衣所には無料で利用できる鍵付きロッカーあり。壁に貼られた分析書をチェックすると「単純温泉、低張性、中性、温泉」とあった。(一部)加温あり、消毒あり、加水と循環なし。

ようし、じゃあ浴室へ…むむ、これは?! 焦げたような匂いがふっと鼻についたのである。すぐに焦げ硫黄臭を連想した。無味無臭を想定していたから意表を突かれたな。本格温泉の兆しあり。期待しちゃうぜ。

ほどよいぬくぬく感の第1浴槽

カランは5台。宿の規模からすれば十分だろう。滞在中に浴室で一緒になった他客は0~1名だったし、それも日帰り客かもしれないし。露天風呂はなくて内湯浴槽が手前と奥に1つずつ。

手前側は人工大理石の四角い湯船で4名サイズ。軽く加温したお湯が投入され、「熱い方のお風呂」という位置づけなんだと思われるが、チェックイン直後と早朝に行った時はまだ加温が完全でなくて、場所によって温度ムラがあった。夜はまんべんなく熱すぎない適温くらいになっていた。40℃あるかないか級。

お湯に見た目は無色透明で泡付きや湯の花は見られず。匂いには微硫黄香が感じられた。こいつが何かの拍子に焦げ硫黄臭となって空気中に出てくることがあるのかもしれないね。知らんけど。絶妙にぬくぬくする温度で冷え込む夜には重宝した。刺激のないやさしい浴感でホッとしますな。

第2浴槽は露天風呂チックな岩風呂でぬる湯

奥側は丸っこい形をした岩風呂。後に聞いた話によれば先代が新しく作ったんだとか(先代のときに川魚料理店から温泉旅館へ移行したっぽい)。当館の主は代々クラフト系のスキルが際立っているなー。鎌倉殿の八田知家みたいな。

岩風呂は大きいように見えても直線的なデザインでないから入浴者をきれいに並べていくことができない分、やっぱり4名サイズかな。こちらは「ぬるい方のお風呂」という位置づけであろう。手前側の浴槽よりも一段ぬるくなっている。一瞬ゾクッとする場面もあるから体温くらいの温度ではないだろうか。自分好みのストライクゾーン来ました。

これほどのぬる湯になると無限に入っていられるレベル。冷・熱どちらの刺激もないのでリラックスしすぎて次第に浮遊感覚に陥り、いつの間にか眠ってしまう。やっべー。あまりの極楽から抜け出せません。もちろん単なるぬるい沸かし湯でここまで気持ちよくはならない。温泉の質的にもしっかりしているからだろう。さすがは九州八十八湯めぐり対象施設に選ばれるだけのことはある。

なお、夜は22時まで、朝の入浴は十分に加温が完了した後の7時からと案内されるが、温まっていないことを承知の上でなら時間外に利用するのはかまわないとのこと。自分は朝6時に行って誰もいない岩風呂ぬる湯を独占した。


温泉だけじゃなく食事にも大満足

夕食で自慢の鯉料理を堪能する

加久藤温泉の食事は朝夕とも1階の食事処で。グループごとに個室が用意され、他客と一緒にはならない。夕食の時は手前の個室に案内され、期待の鯉料理を含むスターティングメンバーがこちら。
加久藤温泉の夕食
酢味噌でいただく鯉の洗いは見るからにプリプリ感が。しかも枚数多めだからケチケチしないでがっつり頬張れちゃうね。途中でいろいろ追加もあり、中でも特筆すべきは鯉のあんかけ。鯉でこの調理法は初めてだったがすごくうまい。
鯉のあんかけ
へー、あんかけというアレンジがあったとはね。鯉といえばあらいと甘露煮しか知らなかったよ。新しい世界の扉が開いた感じ。

そして締めのご飯と一緒に出てきたのが鯉こく。中の具は輪切りにした身ではなかったかもしれないから鯉こくと呼ぶべきかどうかはともかく、大きなお椀にいっぱいの量がすげー。濃厚な旨味につられて珍しくご飯まで完食した。
ご飯と鯉こく
個室の窓の外は暗闇で景色は見えない。でも灯りが当たって水面がゆらゆら揺れている様子はわかった。すぐそこがもう池になってるみたい。一種幻想的な夜景といえる。夜の水面をあまり見つめていると引き込まれそうになるから、ほどほどにしておこう。

朝食もすばらしい出来であった

朝は別の個室で。ハート型のさつま揚げがキュートですな。おじさんにはこれ以上気の利いた形容ができなくてすまんす。
加久藤温泉の朝食
固形燃料で温めている中身はハムエッグ。日本の朝の食卓的な顔ぶれは、自分のふだんの生活だと絶対にあり得ないから貴重な機会だ。具だくさんの味噌汁が大変結構で、他の品々もおいしく、ご飯をおかわりしないまでもばっちり完食した。

食後のコーヒーとデザートがまた良し。コーヒーがなんだか超まろやかなのは使ってる水のおかげですかね。
食後のコーヒーとデザート
朝は明るいから池がちゃんと見える。聞いた話だとこちら側の池の鯉は食用でなく観賞用。池の中にある島の庭園は先々代(だったかな?)が作ったもので、かつては水車があったとか。どんだけ多才なんすか。
食事処から見える池と中島の庭園
 * * *

やさしく包まれるぬる湯に癒やされるだけでなく、鯉を中心とする美味なる料理を楽しめる加久藤温泉。いいじゃないですか。ハード面では昭和レトロな部分が見え隠れするため、人によって合う合わないはあるだろうが、わかる人にはわかる良さがある。

お料理のレベルは高いと思ったので、もし日帰り入浴で利用する場合にも食事とセットで体験してみてはいかがだろう。