個性的な風呂に受けたディープなインパクト - 新菊島温泉ホテル

新菊島温泉ホテル
福島県鏡石町に個性的な温泉宿がある。それが「新菊島温泉ホテル」だ。ネット調査によれば、温泉浴場としても旅館としても、非常にディープな世界を味わえるらしい。自分の経験値だと泊まるのは厳しそうだから立ち寄り入浴で行ってみることにした。

体験してみてひとつ言えるのは、温泉の質は間違いなくいい。あのような大変結構なお湯を贅沢にかけ流しているところは滅多にあるもんじゃない。

そしてまたディープな世界観についても、その一端を垣間見ることができた。正直なところ好き嫌い(というより受容可/不可)がはっきり分かれるタイプだと思われるが、それゆえに圧倒的な存在感を放っているともいえる。

新菊島温泉ホテルへのアクセス

矢吹駅から30分の歩き

新菊島温泉ホテルは鏡石町にあるけれども、お隣の矢吹町との境が近い。最寄り駅はJR東北本線の鏡石ではなくて矢吹。ここから30分ほど歩かなければならない。ユニークな形をした駅舎が、これから向かう温泉に対するディープな予感を増幅させる。
JR矢吹駅
訪れた時期がお盆過ぎのまだ暑さ厳しい頃だったので、旅の全荷物を背負って炎天下を歩きたくはない。駅に併設された観光案内所の中のコインロッカーに主だった荷物をしまい、小物とタオルだけを持って出発。

※観光案内所にはレンタサイクルもある。今回はゲリラ豪雨が来たら躊躇なくタクシーを呼べる態勢にしておきたくて利用しなかった。

行き方は説明しにくい。とくに県立矢吹病院を過ぎてからは、これといった目印もないところを曲がって、地元民専用の狭い道をくねくね進まなければならない。スマホのナビアプリは必須。

最後はこんな感じ。左手に見えるのは当ホテルの敷地内にある宿泊棟だろうか。
新菊島温泉ホテルの裏口
歩きだとこうして裏から入る形になった。車で行く場合は以下のような正門から入ることになるはずだ。
新菊島温泉ホテルの正門

ディープ臭を漂わす外観

ホテルの玄関前は植え込みなどが手入れされているものの、建物は冒頭の写真に示す通り、もう結構古くなって廃墟っぽい風格さえ感じられる。加えて屋上看板に見える「陸奥の出湯」なるフレーズや、玄関正面側にある肝心のネームプレートが木で隠れちゃってるあたりに、マニアの心をくすぐるディープ臭を漂わせている。

んで入ろうとすると、正面玄関の脇にもうひとつの玄関があって、普通のお宅っぽいんですわ。
新菊島温泉ホテルの玄関口
しかし自分は温泉の評判がいいから来たのであって、こういったネタ的なポイントを拾い上げたいわけじゃないことはお断りしておく。いやでも目に付いちゃうんだけどね。


良泉を大量にかけ流す豪勢なお風呂

銭湯より安いかもしれない

では入館。受付で300円を払い(安い!)、奥からいったん屋外へ出ると、大浴場の建物があった。
男湯前
…天狗?…いや何も言うまい。スマホの撮影はここが限界。電源を切って脱衣所へ進む。地元の常連さんやマニアな方々など、つねに誰かがいるとの口コミが記憶にあったわりには、この時は最初から最後まで誰もいなかった。完全なる独占。

建物は古いが気になるほどではないし汚れてる感じもしない。洗面台の水道の蛇口が固まって捻れなくなってたくらい。自分的には許容範囲。

分析書は探すの忘れた。たぶん脱衣所にはないと思う。ネット情報だと「アルカリ性単純温泉」。玄関前の看板によれば「ナトリウム-硫酸塩・塩化物泉、弱アルカリ性、低張性」。
菊島温泉効能書の看板

ものすごい勢いで噴き出す源泉

浴室は手前と奥で2部構成になっている。まず手前側に洗い場と小さめの浴槽。洗い場にシャワー付きのカランは2台。シャワーのない水道式の蛇口が3つ。置いてあるのは固形石鹸のみでシャンプーなどはない。

浴槽は浅め-中くらい-深めの3段になっている。深めのところは2名がいいとこ。浅いところまで全部活用すれば5名くらい詰め込めるかもしれない。

浴槽の一角には、お湯の中から潜水艦の潜望鏡のような形をしたパイプがニョキッと顔を出しており、ものすごい勢いで源泉を噴き出していた。ドボドボなんてものじゃなくブシャアアアァァァーーーッッと吐き出している。

泡付きの良いぬるめのお湯

お湯はたぶん無色透明。黄褐色に見えるのは底のタイルの色じゃないかな。で、入っていくと…足裏にヌメっとした感触があってやたらすべる。転ばないように注意。このヌメリを汚れと捉える人には厳しいかもね。

ぬる湯好きにはうれしいことに全然熱くない。30分浸かり続けるのは無理でも数分で出たくなる熱さではない。お湯の匂いを嗅いでみるとタマゴっぽさを感知する。そして肌がなじんでくると細かい泡がたくさん付着する。

いうまでもなく源泉かけ流しである。このお湯は素晴らしいね。褐色の印象を与える見た目込みで、福岡県にある原鶴温泉・延命館のお湯を連想させた。

奥でつながる混浴大浴槽を独占

さて、先に2部構成と書いたもうひとつの浴槽は円形で、手前側とつながった混浴の大浴槽である。何と説明すべきか、男湯と女湯をあわせた全体が「ニ○」の形をしており、「ニ」の上の棒が女湯の小浴槽、下の棒が男湯の小浴槽、両者はもちろん壁で隔てられている。そして「○」が大浴槽で「ニ」のそれぞれの棒とつながっていると思ってほしい…って、わかんないか。

まあとにかく男女小浴槽と混浴大浴槽の間には仕切りの壁がありつつ、壁の一部に四角い穴がくり抜かれていて、そこから人もお湯も行き来する。なお女湯側の四角い穴には扉が設置されている。つまり大浴槽から女湯小浴槽をチラ見する不届き者から守る仕掛け。

当時は他に誰もいない(女湯にも明らかに人の気配がない)から混浴云々を気にする必要はない。30名は余裕でいけそうな大浴槽を独占してしまった。こちらにも潜望鏡のようなパイプが生えていて、やはり勢いよく源泉を噴き出していた。

大量のオーバーフローが見もの

浴槽の円形にあわせて壁も円形でガラス張り。ただし半分くらいはガラスの代わりに補修板をはめ込んである。ガラスの部分からは草木の茂みが見えた。かつては日本庭園風に手入れされていたと思われるが、今はぼうぼうに生え放題。

お湯の特徴は小浴槽も大浴槽も一緒。わずかな差をあえて強調するなら、前者の方が泡付きがよくて後者の方がよりぬるい。

大浴槽の一部からオーバーフローしたお湯が凄まじい勢いで流れ出している様は一種の見ものだ。思わずその流れの上で横になってトド寝をしてみたら、良すぎてかなりやばかった。これ止まらなくなるぞ。※他に人がいる時はやめておきましょう。

最後に小浴槽へ戻って浅いところで寝湯っぽく過ごしてみた。かなり無理のある体勢だったが、なかなかの味わい。うーん、お湯が良くてぬるめだからいくらでもいられるな。結局は1時間を超える滞在となった。


秘めた実力は一級品

当館を出ると青空がすっかり消えて空模様が怪しい。スマホアプリで雨雲レーダーをチェックすると、ゲリラ豪雨級の雲が鏡石付近を通過中~通過予定だった。矢吹駅方面はどうにか雲の範囲外のようだけど過信は禁物。

大丈夫な方に賭けて歩くか、安全策でタクシーを呼ぶか。ぎりぎりの決断で徒歩に決めた。歩きだしてしばらくすると、県立病院前の県道を1台の馬運車が西へ向かって走り去るのが見えた。

この道の先には、競馬シーンを賑わすトップクラスの実力馬が放牧先あるいはトレーニング拠点として多数滞在する、ノーザンファーム天栄がある。新菊島温泉ホテルは一部のマニアを除いて温泉シーンを賑わすことはないが、それにふさわしい実力は秘めていると思う。相当なクセ馬だけどね。