武尊山の南に位置する川場村は、スキー場やランキング上位の人気を集める道の駅のほかに温泉もある。一大温泉郷というよりは個別の温泉宿がポツポツと点在しているようだ。早春の時期に行く計画を練った際、雪道かどうかが問題だった。スキー場のある山の上の方は論外として、道の駅あたりまでなら除雪が徹底してそうだし、何とかなるのではないか?…実際にも運良く温暖な陽気に恵まれて大丈夫だった。
宿泊した民宿休み石は宮山温泉を称する一軒宿。小規模宿なので広々としたお風呂ではないものの、ふわっと硫黄香を感じる、よく温まるお湯だった。食事は自慢のもつ鍋がうまい。のんびりと心身を休めるのにいい感じのお宿である。休み石だけに。
宮山温泉「民宿休み石」へのアクセス
ひとまず沼田を通る…なら沼田城跡へ
川場村は駅からすぐというわけにはいかない。JR上越線沼田駅から川場村循環バスに乗る必要がある。当宿に近そうなのは「郵便局前」か「巾」停留所。下車後15分歩く覚悟で。
一般的には車で行くでしょう。自分は磯部温泉小島屋旅館を出て、前橋のクア・イ・テルメに立ち寄り入浴した後、国道17号経由で沼田へ向かった。渋川から沼田の間の利根川は渓谷状になっており(綾戸峡)、平地の余裕がほとんどない中をどうにか道路と鉄道を通している。群馬の南北交通は大変だね。
沼田に着いたら川場村へ直行する前に、まず沼田城跡へ行きましょうかね。なにせ真田のアレだから。城の建物が残っているわけではなく現在は公園になっている。石垣は残ってました。
こちらは復元された鐘楼。
実は高速インターから近い
市街地・沼田駅・利根川の方向を一望できる展望所があった。河岸段丘の地形を如実に表してますな。
公園内に真田信之と小松姫(稲姫)の像もあった。大河ドラマ「どうする家康」で上総広常…じゃなかった真田昌幸が沼田城に入れてもらおうとして姫に塩対応されたシーンが思い出される。
国指定重要文化財の旧生方家住宅&生方記念資料館もあったけど、時間の都合によりパス。この付近でうまく場所を求めると、雪で真っ白の姿が印象的な谷川岳を遠望できた。
さて、それでは宿へ向かいましょう。沼田城跡からだと15分あれば着く道のりだ。途中で通過した関越道沼田ICからだと5分程度だから、首都圏から直行する観点ならアクセス至便とも言える。道路は多少のアップダウンはあれど山登りの要素も残雪もなくて安心した。道路脇の日陰にちょっと雪の塊が見られた程度。
おひとり様にはシングルベッド洋室あります
ではチェックイン。フロントの向かいにこたつやソファを置いた部屋があった。完全に開放されて自由に入れるので一種のラウンジ・談話室ではないかと思う。
さらに別の休憩スペースもあった。セルフサービスのコーヒーが提供されているほか、壁には「休み石」の名前の由来が掲示されている…この地域は昔から旅人の往来が多かったそうで、腰掛けて休息するのにちょうどいい大きさの平たい石がいつしか休み石と呼ばれるようになった、その石にあやかった名前とのこと。
客室は2階にある。トイレ・洗面所は共同で、洗面所については冷蔵庫・書棚・テーブルゲーム各種・浴衣とともに以下のようなレイアウトで集められている。
案内された部屋はシングルベッドの洋室だった。他の部屋は、翌朝お客さんがチェックアウトして清掃のため扉が開け放たれた際にチラ見したら畳の和室だったから、一人泊だとこの洋室に割り振られるのだろう。椅子がないため主にベッドの上で過ごすことになる。
男女共用のトイレは入口が2箇所あるけど中はつながっていて、小×2・シャワートイレの個室×3。洗面所と冷蔵庫も上記の通り共同。金庫なし。WiFiあり。浴衣は洗面所の近くにMサイズとLサイズが積んである。窓の外はこんな感じ。
休み石のお風呂でよーく温まっていきなせえ
微かに硫黄を感じるツルツル系のお湯
お風呂は1階にある。特に貸し切り運用ではないから他のお客さんと一緒になることもある。そんなに大きな風呂ではないので、脱衣所の様子をうかがって、数名のグループがいる雰囲気なら遠慮して出直すし、一人いるだけなら「ごめんなすって」で入っていくし、まあ適当に判断。満室と思われるくらい何組も泊まってたみたいだけど、出直さなきゃならない場面はなかった。
脱衣所にタオルがたくさん積んであって、部屋からタオルを持参する必要がない(そもそも部屋にタオル置いてない)。こりゃ便利だね。分析書をチェックすると「ナトリウム-塩化物泉、弱アルカリ性、低張性、冷鉱泉」だった。源泉温度は23℃。あとちょっと、25℃あれば温泉を名乗れたのにな。なので少なくとも加温はしている。
浴室にカランは3台。シャンプーは馬油だった。あとは4名サイズの四角い内湯浴槽がひとつというシンプルなつくりである。浴槽の奥の隅っこにある湯口から規模に見合った十分な量の投入が見られ、浴槽に溜まっているお湯は無色透明。
浸かってみると適温だった。明確にわかるような湯の花・泡付きは確認できず、無色透明とあわせて外見上で強く主張してくる個性はない。ただし匂いを嗅いでみると、ほんのりと硫黄香が感じられて「ああ、温泉だなあ」と妙なうれしさがこみ上げるのだった。感触はツルツルの系統。
寒い時期にありがたい、ぽかぽか能力
ふぃー。しかしよく温まるね。決してあつ湯というわけではないんだが、冷えた身体をしっかりばちっり温めてくれる。年初から月2回のペースで温泉めぐりを決行したおかげで、冬の風物詩=手指のむくみ・あかぎれが一時収まっていたのに、3月に入って寒の戻りが来たら再発してしまった。今回の遠征で完璧に改善しておきたい。中でも休み石のお湯はびしっと決めてくれそうな予感あり。頼むぞ、いけいけ。
窓越しに少し外の景色がわかる。木立の道といった風情で、絶景露天風呂が売りにするようなパノラマビューというものではないけど、いきなり目の前に塀が立っている構造ではないし、いいんじゃないでしょうか。
夕方チェックイン直後と夕食後、翌朝起床後の3回は入った。もしかするともう1回あったかもしれない。なお、入浴可能時間は夜が21時まで、朝は6時から9時だったと思う。自分は深夜・超早朝に入ることはないから問題なし。深夜の時間帯を狙って入浴するスタイルの方はご注意。
君は休み石のもつ鍋を食べたか
夕食で名物もつ鍋を楽しむ
民宿休み石の食事は朝夕とも1階広間にて。夕食は18時半開始。広間へ行くと自分用の座卓席…掘りごたつ式だからあぐらをかく必要がなくて足を伸ばせるのは良い…にスターティングメンバーが並んでいた。
お造りに相当するのが刺身こんにゃくとホッキ貝ってところに個性が出ているかな。まあ群馬だと刺身こんにゃくはたいがい出てくるが。あとさつま揚げみたいなのがある。ほかに天ぷらやちょっとした肉など、ビールのお供には事欠かない。そしてこちらが名物もつ鍋だ。
もつが柔らかくてうまい。なんでこんなに柔らかくできんの? こいつは確かに名物を名乗るだけのことはある。出汁の具合もちょうどいい塩梅。あったか~い鍋が、まだちょっと肌寒いこの季節にぴったりだ。少食派の自分ですらもっと食べたくなってしまった一品。
目の前のくぼみに置かれた炊飯ジャーは自分専用だった。最後はご飯の量で調整するとしても、全体的なボリュームは十分、かつ胃が苦しくならない程度にバランスが取れていた。
おなじみの和定食で朝チャージ
朝食は7時半開始。前夜の夕食時に比べてお客さんの姿も配膳されている料理のセットも少ない。朝食なしプランの人が結構いるってことかな。朝早くからばたばたとチェックアウトするかのような動きがあったし。たとえばスキー客であればスキー場で過ごす時間を最大化したいだろうし。
それはともかく、派手さはなくてもどこかほっとする「なじみの和定食」で静かな朝のひと時を。ここでも炊飯ジャーは個人専用。もちろん全量は完食できなかった。
食後は例の休憩スペースでセルフのコーヒーをいただいた。その時に休み石の由来説明に気づいたのだ。さて、一泊して十分に休めたし、最終日はどうすっかな。やっぱり有名な道の駅に行ってみるかな。
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気取らない小規模な民宿でほっこりしたい人向けのお宿。よく温まる温泉ともつ鍋の組み合わせを考えると、夏より秋後半~春前半の時期がいいかもしれない…勝手な想像ですが。昔から大勢の旅人にとって休息の場だった石と同じような存在として、今後も癒やしを提供していってほしい。