ニュータウンの中に現れたレトロで渋い湯治場 - 吉野谷鉱泉

吉野谷鉱泉
ずいぶん久しぶりに北茨城〜いわきエリアへ行ってみたくなった。冬に北関東・東北を目指すのは雪のリスクがあって怖いのだが、茨城や福島の海沿いなら雪が降ることはあまりないという話だし、天気予報をチェックして大丈夫と確信できたので決行。

旅程としては最初にいわき市まで行ききってしまう計画。せっかく車で長距離ドライブに挑むのだから、JR湯本駅周辺ではない、車があってこその場所にある温泉にも立ち寄ってみたい。そこで探して目を付けたのが吉野谷鉱泉だ。

鉱泉とはいえしっかりした温泉感があって効き目ありそう。そしてちょっとディープな世界観は個人的に嫌いじゃない。印象に残る温泉であった。

吉野谷鉱泉へのアクセス

新たなる我が武器=マイカーの初陣として甲府に遠征してから1ヶ月。次の目標に定められたのが福島いわきだった。東京近郊からそこまでの往復運転を独力でこなすことができたら今後の自信にもつながり、いろいろと夢が広がるってもんだ。

現地で観光をバチバチにやるつもりはなく、早朝とはいえない時間帯にのんびり出発。10時半に常磐道友部SAへ入り、朝兼昼食でフードコートの豚骨ラーメンを食す。
友部SAの豚骨ラーメン
こんなにガッツリ食べちゃって、旅館の夕飯までに消化できるかなあ、と不安を覚えつつ…最近こんなのばっかでいけませんね。旅先でもっとグルメを楽しみたい気持ちはあるのだが、体がついていかない悲しさよ。

それから中郷SAでも休憩を入れつつ、いわき中央ICで常磐道を出た。吉野谷鉱泉までは、主に国道49号を南東へ走ることになるが、この道路が高規格っぽいつくりで走りやすい。市街のごちゃごちゃした通りやくねくね曲がった狭い山道を通らなくてすむのは助かる。

現地一帯はいわきニュータウンとして開発された地区のようだ。要所要所に当湯の看板が立っているしカーナビもあるから迷うことはなかった。整然とした街並みの一角を占める新興住宅地のような雰囲気の通りを左折して最後の数百メートルだけは、車1台分の幅しかない、昔ながらの狭い道になっている。そこだけ注意。


レトロでディープで熱めの温泉

タイムスリップ感のある空間

最後まで行き着くと5台ほど止められそうな駐車スペースがあった。目の前の物置小屋がディープな予感を漂わせる。
物置小屋
こちらの看板もなかなか味わい深い。
吉野谷鉱泉の看板
看板の矢印の方向に目を向けると次のような家屋群が目に入る。
吉野谷鉱泉の家屋群
写真左手前の壁だけ写ってるやつが宿泊棟その1(冒頭写真と同じ建物)、中央に写っているのが螢雪ゼミナールという学習塾かな? 一番奥が宿泊棟その2+浴室で、煙突から白い煙が出ているのがわかるだろうか。温泉の正面玄関は宿泊棟その1を逆側へ回り込んだ中庭の先にある。初見だと間違えやすいかも。

館内の様子に個性がにじむ

玄関でちょうど出てくる先客とすれ違った。近くにいたご主人にはすぐ気づいてもらえて、500円払って入館すると、さまざまな説明を交えながら浴室まで案内してくれた。途中で通った上述の宿泊棟その2の内部はこのような感じ。
浴室への廊下
廊下に並ぶ各種の品はフリーマーケットの売り物である。よかったら買っていってと勧められたが、さすがに旅の途中だし心の準備ができてない。また「うちは泊まりもやってましてね」と障子を開けて客室内を見せてくれた。湯治宿風の素朴な小部屋の中にこたつとベッドが置いてあった。

さらに「飲泉もできますよ。そこのペットボトルに入れて2本まで持って帰っていいよ」と示されたのが白水鉱泉水の札がついた蛇口。おお、なんだかすごいぞ。容器まで用意してくれるとはかなり積極的。
白水鉱泉水の汲み場
こうして案内されたもろもろの事物が醸し出す雰囲気にすっかり呑まれちゃったみたいで、お風呂に入る前からすでにお腹いっぱいな気分だった。いかんいかん、肝心の温泉をしっかり体験せねば。

渋水&白水の2源泉あり

脱衣所+浴室は双子というか2セットあって、日替わりで交互に使わせているようだった。ってことは混浴なのか。まあ訪問中はずっと独占でしたけど。宿泊棟と同様に木造のかなりレトロ&ノスタルジックな雰囲気はとてもニュータウン内の施設とは思えない。ちなみに分析書は見つからず。

浴室にはカランが1台。シャンプー・ボディソープの類は置いてない。手前に大きなポリバケツがあり、中は水で満タンだった。お湯が熱い時に加水する用?

あとは保温シートを被せた1〜2名サイズの小さな浴槽。シートをめくって浸かってみたら…熱っちー!! 壁から「渋水鉱泉水」と「白水鉱泉水」の2つの蛇口が生えていて、蛇口をひねれば冷たい2種類の源泉が湯船に注がれる。とはいえ適温にするには相当な時間を要しそうだったため、先ほどのポリバケツから多少加水しました。

なかなかの雰囲気を持つお風呂

それぞれの蛇口から出てくる源泉は飲むこともできる(コップが置いてある)。飲んでみると…正直なところ、渋水と白水の違いはわかりません。普通の水道水と違う感じはあったが、独特の癖があるかといえば、そこまで尖った主張はしてこない。

お湯は無色透明で泡付きや湯の花は見られない。匂いにははっきりわかる微硫黄香らしき温泉臭があった。ヌルヌル・ツルツルした感触はない。そして熱いのも慣れてくるとジワーッと効いてくる感覚に変わり、なかなか悪くない。

気持ちが落ち着いてあたりを見回す余裕ができると、あらためてレトロというかディープ感がすごいなー。福島まで来たこと以上にこの非日常感がとんでもなく、転地効果はばっちりだ。あ〜いい湯だなっと。

小さな湯船と、熱めのお湯と、他客と一緒になることが実質できないため長時間の独占を避けるべきことから、そんなに長湯したわけではない。適当な頃合いであがった。しかし体はもう十分に温まったし、渋水&白水パワーで全身シャキッと仕上がった気がするぞ。なかなかいいじゃないか。

入浴後の印象的な体験

帰りがけにご主人に声をかける。ありがとうございました~。すると「水は汲んできたかい?」…あ、そうか、いえ…「せっかくだし、持って帰りなよ」と取り置きしてあった2Lペットボトル入りの白水鉱泉水をいただいた。普通に飲むほか、ウィスキーを割るのにもいいとか。

さらに自分が旅行中だと知ると、観光パンフレットや美術展のチラシ、果ては螢雪ゼミナールのチラシまでもらっちゃった。自分はおっさんだけど学習塾に誘うの?と思いきや、大学・専門学校受験向けの社会人OKの講座もあるっぽい。やるな螢雪ゼミナール。

そして最大のアハ体験が、いわきには白水阿弥陀堂という国宝があると教えてもらった時だ。昔、いわき地方の国主の妻が奥州平泉ゆかりの御方で、平泉の「泉」を2つの文字に分けて白水と称したそうな…アハ!

それに、いわきには平と泉っていう地名があるでしょ、と。おおーーーあるわ、たしかにあるわ。常磐線に泉駅があるし、いわき駅はもともと平駅だったもんな(鉄ちゃんではないのに駅名で納得する奴)。平と泉で平泉。アハ! なるほどザワールド。

白水鉱泉水の名前にも深い意味があったのね。体だけじゃなく脳みそまでシャキッとしちゃったよ。