ぬるめの日本三大薬湯とおいしい米 - 松之山温泉 野本旅館

松之山温泉 野本旅館
有馬温泉・草津温泉・松之山温泉を日本三大薬湯と呼ぶ。有馬と草津は行ったことがあるけど松之山は未体験だった。じゃあもう行くしかないね。と思って調べてみると熱いのが特徴になってるみたい。うーん、どうしよう…自分がぬる湯好きなのと季節的にまだ暑さを感じる頃だったから迷いが生じた。

そんな悩みを解決してくれる宿を見つけた。野本旅館の紹介文に“温泉はぬるめで提供しています”と書かれていたのだ。こいつはありがてえ。おひとりさまOKで2食付きの標準的な旅館タイプ、お値段も一般水準で手が届く範囲。さっそく予約を入れ、三大薬湯コンプリートの手はずは整った---。

松之山温泉「野本旅館」へのアクセス

日帰り温泉ナステビュウもあるよ

東京方面から鉄道を利用して松之山温泉へ行くには、上越新幹線・越後湯沢→ほくほく線・まつだい駅から松之山温泉行きのバスで約25分。本数注意。

自分は越後湯沢からレンタカー。津南町の越後田中温泉しなの荘に立ち寄り入浴した後で松之山温泉へ向かった。地図を見ると国道405号を使えば最短で行けるように思われるが、やけに道が曲がりくねっており、走るのが大変そう。安全策で越後鹿渡駅の手前から国道353号を使うルートにした。所要時間もかえって短いんじゃないか。越後湯沢から直行するなら石打で353号に入ってしばらく道なりでOK。

あとは松之山交差点を左折して5分ほどで温泉街入口に到達する。しなの荘から30分、越後湯沢からだと1時間ってところ。途中にナステビュウ湯の山という日帰り温泉施設があるのでお時間あればどうぞ。このご時世に特有のアレが拡大すると一部地域からの旅行者をお断りする措置を取るようなので事前調査をお忘れなく。

温泉街の道を奥へ

温泉街入口に駐車場があったけど、まあ旅館の駐車場を使えるだろうとふんで車のまま温泉街の通りへ入り込んだ。規模は小さいながら旅館・食堂・土産店・地元向けのお店が道の両脇に連なり、しっかり街として成立しているように見える。自粛が正義になっちゃってる期間はさすがに厳しいだろうけどね。なんとなく肘折温泉を連想させる雰囲気だった。なんとなくですよ、なんとなく。

共同浴場・鷹の湯の先の里山ビジターセンターに温泉むすめのパネルが立っていたので寄り道。見かけたら撮影しないと気がすまない体になってしまった。
温泉むすめ 松之山棚美
松之山棚美ちゃん。名前の「棚」は松之山・松代地域に多く見られる棚田にちなんだものだろう。ここまで来れば目的の野本旅館はもうすぐそこ。建物の1階の一部が数台駐車可能なガレージになっている。


温泉目的にはちょうどいい旅館

ではチェックイン。ロビーはこのような感じ。朝食後はここでセルフサービスのコーヒーが提供される。
野本旅館のロビー
食事の場となる広間は2階、大浴場は4階。3階に電子レンジと水・氷のサービスあり。ソフトドリンクの自販機とランドリーが大浴場の前にある。ビール等お酒の自販機は見当たらなかった。なきゃないでいいやと夕食時以外の飲酒はせず。旅館の規模と雰囲気からして、充実した館内施設でアクティブに云々というよりは風呂に入って部屋でゆっくり過ごすのに向いている。

で、割り当てられた部屋は通りに面した3階の8畳和室。布団が最初から敷いてあるのは近年のトレンド。換気扇のガーという音がちょっと大きめだった。自分は気にせず夜もぐっすり眠ったガー。
野本旅館の客室
シャワートイレ・洗面台あり。金庫あり。空の冷蔵庫あり。WiFiあり。ウエルカムお菓子を含めてひと通りは揃ってますな。あとタオル掛けが大きめで使いやすい。窓の外はこのような感じ。
窓からの眺め
お向かいの旅館ですね。左側が白川屋、中央~右が和泉屋だと思われる。このロケーションは温泉街の一番奥に近い。


野本旅館で薬湯を体験す

癖になるアブラ臭

いよいよ最後の三大薬湯を体験しに大浴場へ。ここは内湯のみで男湯女湯の入れ替えもない。分析書には「ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、高張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。源泉名に鷹の湯1号・2号・3号の名前が載っていたから、それらの混合泉かな。

また浴室への扉の近くには「ぬるめの湯にゆっくり浸かるのが健康に良いため40~41℃で提供しています」という旨の張り紙がしてある。うむ、狙い通り。少なくとも熱々でないのは間違いない。

期待とともに扉を開けて中へ入ると、匂う、匂うぞ。プ~ンと独特の香りが鼻をつく。いわゆるアブラ臭ってやつですな。アブラといっても石油やインクではなく、薬品ぽい感じがする。薬湯だけに。決して嫌な匂いではない。慣れてくると自ら求めてしまう中毒性がある。

ゆったり入れる温度が良い

カランは6台。L字をひっくり返したような形の内湯浴槽がひとつだけあって、3名サイズの浅い区画と6~7名が横並びに入れる普通の深さの区画からなる。奥のコーナーの湯口からお湯は出ていなくて枯れていた。そのかわり(?)深い区画の中央付近の底からお湯を投入しているらしく、そこの湯面がモコモコっと上下動を繰り返していた。

深い区画の一端には2名分くらいのジェットバス機構が付いているようにも見えるけど、本当にそうなのか、作動させることができるのか、よくわからなかった。個人的には現状のままで別に不都合なし。

お湯は青のような緑のような色がごく薄く入っているような気もしつつ、ざっくりいえば無色透明をほんのちょっとだけ濁らせたような見た目。浸かってみるとややぬるめの適温。まさに40℃。30分でも1時間でも入り続けられる体温レベルのぬる湯とは違うが、体が温度に慣れてくると出たくなくなって結構長く粘れる。

山塩を連想させるお湯

お湯の中には湯の花らしき白っぽい粒子が漂っている。また匂いを嗅ぐとやっぱりアブラ臭がはっきりわかる。跳ねたしずくが口元へ飛び込んできたときには、しょっぱい味が口の中に広がった。松之山温泉はそもそも塩分が濃いみたいね。山里で海をイメージさせる温泉ってのが面白い。

4階にある大浴場だから展望風呂かといえば、そこは微妙。一応男湯は温泉街の通りに面したガラス張りの大きな窓から外を見ることはできる。先ほどの部屋の窓から見えたような景色かなあ。水滴や曇りがあるからはっきりくっきりではないけど。

夕方2回・夜1回・朝2回入りに行って独占確率がほとんど100%に近かったおかげでマイペースで楽しませてもらった。脱力系の効能があるようで風呂あがりは妙にぐったりしてくる。


食事は米どころの実力を発揮

夕食は盛り沢山の料理と棚田の米

野本旅館の食事は朝夕とも2階の広間で。部屋ごとに決まったテーブル席が用意される。夕食のスターティングメンバーがこれ。先付の夕顔あんかけ他を少し食べ始めちゃいましたが。
野本旅館の夕食
牛きのこ鍋も最初にセッティングされて火をつけてくれる。あとまいたけ土瓶蒸しも出てきた。お酒は新潟まで来たということで松乃井・雪男・魚沼で候の日本酒3種飲み比べセットを注文。その順番で飲むといいですよとのこと。すっきり→濃厚になっていくってことかな、知らんけど(違いのわからない男なんで)。

後半戦は鍋ができあがり、天ぷら・鮎塩焼き・松之山温泉の源泉62℃で2時間低温調理により柔らかく仕上げたという湯治豚炙りも追加されて、オールスター大運動会みたくなった。
野本旅館の夕食その2
いやもう十分。結構な食材のお料理をたんまりいただいてお腹いっぱいだ。その余波を受けて魚沼産棚田コシヒカリを一膳しか食べられなかった。これがまた米がいいのか炊き方がいいのか、1粒1粒がしっかり立ってて口に入れたときのツブツブ感がたまらない。普通ならおかわり必至。デザートのミックスベリーのムースもなかなか凝っている。

やはりご飯を堪能したい朝食

朝食はこんな感じ。自分で割る温泉玉子は珍しいかも。あとコーヒーゼリー付き。夕食のムースといい、デザートは果物ではない方向性でいい勝負してる。
野本旅館の朝食
朴葉ならぬホイル味噌は反則級じゃないか。ご飯がすすんでまうやろー。前夜の無念を晴らすかのようにおかわりしたのであった。

食後は最初に書いた通りロビーでセルフサービスのコーヒーをいただく。うーん優雅ですなあ。なんてリラックスしながら頭の中では冷徹に計算を進めていた…まだ時間あるな、よし、最後にもう1回風呂に入って薬湯締めとしよう…。

 * * *

前から気になっていた松之山温泉を体験することができて気持ちはすっかり満たされた。とくに野本旅館はぬるめなのでじっくり楽しめる。他の施設・旅館と比較したわけじゃないけど、アブラ臭はしっかりあったし、しょっぱい味もあったし、浴感も良かったし、薬湯体験としては十分だったと思う。

湯治場イメージを持っていた松之山温泉といえども、おひとりさまOKの宿ばかりではないし、ちょっと手が届かない高級宿もある。そんな中で一人泊可&お手頃&ぬるめの湯を特徴とする野本旅館は覚えておきたい。


おまけ:美人林と棚田の見学

美人揃いの美人林

チェックアウト後に松之山の美人林という観光スポットへ行ってみた。松之山温泉から車で10分。最後の1km弱はすれ違いに気を使う細い道だから注意。

入口に熊注意の看板があってびびったが、朝からそこそこ人がいたのでまあ大丈夫だろうと気を取り直す。現地は一面のブナ林であった。
美人林
どの木もスラッとまっすぐ立っているのが美しいね。林の中を歩く散策路があったりするけど時間の都合で入口付近から奥をチラ見しただけで立ち去った。もったいねー。

自分に可能な範囲で行ける棚田へ

お次は棚田見学。エリアとしては松代になる。最も有名な星峠の棚田は、ストリートビューで調べたら自分の運転技量では辛そうな道路だったからパスして、蒲生の棚田へ。
蒲生の棚田
時期的に水を張った田んぼではなく緑が濃い景色。棚田に加えて遠景の山々が良かった。写真ではわかりくいですね。

で、最後に儀明の棚田へ。蒲生の棚田から行くと国道253号の反対車線側に駐車スペースがある。うまく立ち回るか少し先の公衆トイレの敷地でUターンしよう。
儀明の棚田
これにて観光は終了。この後は立ち寄り入浴+他にやりたいことがひとつあった南魚沼市へ向けて出発した。


【参考:日本三大薬湯】
日本三大薬湯の残りは草津と有馬の二大巨頭。