上高地観光に便利。安房峠のモダン秘湯 - 中の湯温泉旅館

中の湯温泉旅館
上高地へ抜ける釜トンネルの入口に差しかかると見えてくるのが「中の湯売店」の建物。かつてはこのあたりに「中の湯温泉旅館」があった。現在は安房峠の途中に移転して営業している。焼岳登山や上高地観光の拠点として便利なロケーション。我々も連泊で利用させてもらった。

日本秘湯を守る会の会員宿であり、なかなかモダンな風情。ハード面・サービス面は現代っ子にも十分受け入れられる水準だ。いくつかの要素を割り切ることができるなら、価格をいくらか抑えた別館的な客室も用意されている。

温泉、ロビーから見える山の風景、そして周辺の観光や登山。中の湯ならいろいろトータルで楽しむことができるだろう。

中の湯温泉旅館へのアクセス

松本市街から国道158号を岐阜方面へ走っていくと釜トンネル手前の信号を左折することになる。直進(微妙に右折)してトンネルへ進入する道はマイカー規制が行われている県道上高地公園線。そちらへ行くには手前の沢渡地区に車を置いてバスかタクシーに乗り換える。

この交差点の角に中の湯売店があり、もしバスで来た場合は売店⇔旅館の間を送迎してもらえる。また売店で申し込みをすると卜伝の湯という外湯を利用できたようなのだが、現在は土砂崩れの影響で利用不可。

さらに脱線すると、現在の釜トンネルは平成の世になってからできた走りやすいトンネルで、以前の旧釜トンネルは暗い・狭隘・急勾配・路面劣化に加えて車列がぎっちり詰まって身動き取れない、泣く子も黙る難所だったらしい。当時の事情を含む強烈なお話は廃道探索サイト「山さ行がねが」の隧道レポートに詳しい。思わず読みふけってしまった。

話を戻そう。上記の交差点を左折してしばらく行くと平湯へ抜ける安房トンネルにつながるが、そこまで行かず手前でV字型に鋭く右折して安房峠越えの旧道に入る。道は急に細くなってつづら折りのヘアピンカーブが続くから初心者やサンデードライバーには辛い。そこを第7カーブまで頑張れば中の湯が現れる。

実際の我々は新穂高ロープウェイに乗ったり平湯温泉・ひらゆの森に入浴するというアクティビティをこなした後、平湯側からアプローチして宿に到着した。


いろんなタイプの部屋がある、モダンな秘湯宿

山岳ビューと自然観察のできるロビー

ではチェックイン。いかにも山小屋風の素朴な秘湯宿というわけではなく、むしろモダンな雰囲気がある。新釜トンネル工事の時期に移転してできた建物だからね。日本秘湯を守る会の提灯とともに囲炉裏風のスペースがあった。
囲炉裏風スペース
ロビーはこちら。湯あがり向けの冷茶・冷水サービスあり。大きな窓からは霞沢岳が見える。左奥には穂高連峰も。
中の湯温泉旅館のロビー
到着時や早朝の時間帯は雨雲による視界不良で山の稜線が見えないかわり、それはそれで霧深くて幻想的な風景であった。晴雨どちらでもソファーに体を沈めて眺めればリッチな気分になれそう。ロビーの片隅に望遠鏡が設置してあるのは野鳥や草花の観察用でしょう。あとフロント前にお土産コーナーもございます。
お土産コーナー

お財布に少し優しい別棟もあり

我々が予約した客室は焼(やけ)というトイレ・洗面所なしタイプの12畳和室。ロビーから1階下って、通路を経由して別棟へ移動(通路前に下駄箱があるけどスリッパ履きのまま通過してOK)した先にある。風呂・食事処までの長めの移動や階段の上り下りを苦にしない人向け。
焼・12畳和室
管理状態は良し。室内の布団は最初から敷いてあった。金庫あり、空の冷蔵庫あり、トイレ洗面はもちろん共同。洗面台は3名分、男子トイレは小用が3か4、個室が洋式1・和式1。真夏には大自然の中なりに小さい羽虫とかを見かける。個室内でカマドウマが出てきたときは一瞬ぎょっとしたが、正体がわかってしまえばどうということはない。

冷房なし。暑くはなくても空気がモワッ・ムシっとした感じはずっとあった。WiFiはよく覚えてないけど、あったとしてもロビーのみだったんじゃないか。なぜなら自分のスマホのアンテナが0~1本しか立たなくてほぼネットにつながらなかったのに、じゃあWiFiを使おうという行為に及ばなかったから。窓の外はこんな感じ。
窓の外の景色
真正面下方はただ駐車場があるだけだったので、斜め横向き・やや見上げるようなアングルで撮ってみた。


山歩きの疲れを癒やす温泉大浴場

思ってた以上に利用者あり

中の湯の大浴場は本館フロントと同じ階の奥。2つある浴場のうち、夜19時までは手前側が男湯で奥側が女湯。19時以降チェックアウトまでは男女が入れ替わる。この一角にビールを含む自販機がある。

夕方は手前の浴場へ。入口付近に大きなパネルと紙の分析書の2通りで泉質が掲示されていた。一方が「単純温泉、弱アルカリ性、低張性、高温泉」、他方が「単純硫黄泉、低張性、中性、高温泉」。調査年月日は同じような日付だった。どっちにも取れる微妙な境界線上ってことかな。加水、加温、消毒あり。

浴室内にカランは8台。シャンプーやボディソープには秘湯くまざさシリーズが使われていた気がする。洗い場が全部埋まることはないが、そこそこ使用率高い。やはりみんなが訪れたくなるシーズンのせいか、ここ最近の温泉旅行にしては独占機会が極端に少なく、お客さん多め。でもまあ芋洗いってことはない。

内湯には熱めと適温の浴槽

内湯浴槽は2つ。3名規模の小浴槽は一般通念に寄り添った42℃級の適温。自分にとっては熱すぎるのでちょっと試してすぐ終わりにした。

6名規模のメイン浴槽はせいぜい40℃といったところで入りやすい。こちらはしばしば利用させてもらった。お湯はクリアな薄緑系の色がついているように見える。タイルの色を反映しただけで実際は無色透明のようでもあり、やっぱりお湯自身が緑色をしているようでもあり、どっちかわからん。

よく見るとお湯の中に小さい茶色の粒がいっぱい漂っている。内湯だから枯れ葉の残骸とは思えないし、剥離した木くずを生じるような浴槽じゃないし、湯の花でしょう。匂いをかぐとほのかに硫黄っぽい感じはある。そんなに強いものではなくて単純温泉に時々ある軽い硫黄香の範疇。そして消毒系の匂いは感じない。

室内は新しめで快適。秘湯だからとアクの強いワイルドさやボロいと言い換えられそうな素朴さを求めると肩透かしを食うかわり、万人向けの安心感はある。

ぬるめの露天風呂が主力級

外へ出て石段を数段下りると露天風呂がある。8名規模の岩風呂で温度はぬるめ。体温よりやや高いくらいで、長時間粘っても全然平気なやつ。滞在中は主にここを狙って入っていた。2箇所の湯口からの投入があり、兄貴分の目立つ方はふだんチョロチョロのくせに突然思い出したようにドバドバ吐き出し始める。近くを陣取った場合はお湯跳ねに注意。

お湯の特徴は内湯と一緒。漂う茶色い粒はこっちだと枯れ葉の残骸かもしれないなあ。一応湯の花ということにしておこう。そういえば内湯を含めて全般に、特別にヌルヌルするとかキシキシするとかの感触はなくて、いたって素直。登山やハイキングの後に汗を流すならこういう癖の少ない湯にゆっくり浸かった方が良いかも。

周囲は木とか草とかに囲まれ、遠くの山々が~ではなかったと思う。野趣あふれるとまでは言い切れないが自然の中の露天風呂気分は味わえる。

もうひとつの浴場もほぼ同じつくり

19時から翌朝にかけて男湯になる浴場も基本的なつくりは一緒。洗い場・内湯の小浴槽とメイン浴槽・露天岩風呂の構成まで同じ。露天風呂がひと回り大きく10名規模のように見えるのと、露天エリアの囲いがやや厳重になっているのが違うといえば違う点。

ここから10km離れた沢渡温泉は中の湯と同じ源泉地から引湯していると聞いた。それだけ湯量は豊富ってことか。焼岳は近いし、安房トンネルに関連した工事で水蒸気爆発事故があったというし、意識してなかっただけで実はかなり荒々しい火山性地質の中にあったのだなあと今さらの感想。


手堅くまとめられているお食事

ズイキと朴葉味噌がブースター

中の湯の食事は朝夕ともフロントに近い食事処で。2泊したので夕・朝各2食ずついただいた。まず初日の夕食がこちら。
中の湯温泉旅館の夕食(1泊目)
先付がズイキ五目あえ。恥ずかしながらズイキとは何かを気にしたことがなくメンバーに教えてもらいました。芋の葉柄のことね。これが酒のつまみにちょうどいい。お造りはサーモン。でやっぱり凌ぎにそばが出てきた。
中の湯温泉旅館の夕食(1泊目)その2
岩魚塩焼きや鍋物もあってもうお腹いっぱい。派手さはなくとも(なくていいけど)手堅くまとめられており、山の宿ぽさもあり、よろしいのでは。

翌朝はこちら。蓋をした鍋は豆乳から作る豆腐だ。そして何がやばいって朴葉味噌ですよ。軽く温めてご飯に乗せるとあら不思議、いくらでも食べられる。癖になる味。
中の湯温泉旅館の朝食(1泊目)
このあと上高地をさんざん歩く計画なので、お腹をパンパンに苦しくしない方が得策と考え、ご飯のおかわりはせず。

2泊目のメニューも抜かりなく

2日目の夕食がこちら。もちろん初日とは献立の趣向を変えている。いろいろ諸事情あって、自分だけは先付が今宵もズイキ、そして凌ぎはそばがきであった。
中の湯温泉旅館の夕食(2泊目)
この日もボリュームはたっぷり。豚味噌鍋をつついたり、ブリの幽庵焼きが追加される頃にはすっかりお腹いっぱいになってた。1日中歩いて疲れたのを補って余りある栄養補給だ。

ちなみにご飯はお櫃に入ったのを自分でよそうのではなくて、お願いすると茶碗に多めに盛られて運ばれてくる。おかずの時点で苦しくなってきたら少なめでお願いしよう。

最終日の朝食はこちら。やったぜ、またしても朴葉味噌。焼鮭もあるし、ご飯が進みすぎてしまう。
中の湯温泉旅館の朝食(2泊目)
しかし少食を自認するおじさんは意地でもおかわりしない。なんだか本末転倒している気もするが何事もほどほどが肝心だからな。自制気味の完食でも夕方家に帰り着くまで昼抜き・間食抜きで全然大丈夫だった。

 * * *

中の湯では朝の時間に上高地へ送ってくれるサービスがあるので、我々にとってはメリットが大きかった。マイカーで行こうとしたら沢渡まで戻って路線バスに乗らなきゃいけないわけだからね。繁忙期だと狙ったバスが満員で乗れず積み残されるリスクもありそうだし。

今回訪れたのは夏山の時期だったけど、中の湯は通年営業しているらしい。冬もやっているとは驚いた。雪見風呂とか風情がありそうね。真冬にあそこへアプローチするのはよほどの手練でないと厳しそうだが。