白濁湯に包まれる、山間の秘湯宿 - 白骨温泉 白骨ゑびすや

白骨温泉 白骨ゑびすや
上高地訪問とセットで白骨温泉の宿に泊まってみたいというのが、大げさにいえば数年来の夢であった。しかし一人旅だと交通手段の面でも宿探しの面でも敷居が高い。このたび仲間内で話がまとまってグループ旅行企画が組まれたのは、まさに絶好機と言わねばなるまい。

具体的な旅館選びを上高地経験豊富なメンバーにおまかせしたところ、1泊目が白骨ゑびすやと決まった。評判はなかなか良いようだ。無理のない価格設定で設備面・サービス面・食事面は水準以上。いいじゃないですか。

そして温泉面はさすが白骨の湯。個性の強い白濁硫黄泉でありながらも優しく包んでくれる感じが気に入った。旅情たっぷり・秘湯気分たっぷりで楽しませてくれるお風呂はいい思い出になった。

白骨温泉・ゑびすやへのアクセス

松本から梓川を遡る

実際の我々は乗鞍高原を観光した後、乗鞍~白骨を結ぶ山道を通って当宿へ向かったが、以下では松本市街から直行するという一般的なシナリオに沿って、体験談の時系列を組み替えたストーリーでお送りする。

※以下に続くダム見学を実際に試みたのは最終日の帰るついでの時。3ダムへ寄った順序も書いてあるのとは逆順。

首都圏から白骨温泉へのルートは、まず中央道松本ICまで行ってから国道158号に入る。行楽シーズンの158号は大渋滞になるというから相応の覚悟を。松本電鉄新島々駅を過ぎると梓川沿いを走るようになって山里の雰囲気が濃くなる。

途中で梓川3ダム見学はいかが

このあたりは梓川3ダムと呼ばれる3つのダムが数キロの距離をおいて連なっている。まず現れるのが稲核ダム。ただし立入禁止措置が取られていて近くまでは行けなかった。ここは遠目に見ただけであっさり通過。

次が水殿ダム。道の駅「風穴の里」から数百メートル歩いてもいいし、ダムのそばにも駐車場あり。ここは天端を歩ける。アーチ式だけど駐車場寄りの序盤は湾曲のないストレート状である。
水殿ダム
堤高は100メートル近い。ダムの下流は川というよりそのまま稲核ダム湖になっている。

大規模で迫力ある奈川渡ダム

最後に控えるのが最大の奈川渡ダム。野麦峠方面に分岐した道に入ってすぐに駐車場がある。下流側を覗き込むとちょっと恐怖感を覚えるほどの高さだ。それもそのはず、堤高は155メートルもある。吹き付ける風は強く、撮影のため取り出したスマホが飛ばされそうな勢い。
奈川渡ダム
これほどの規模になると天端がそのまま国道158号になっている。上流側のダム湖もずっと先まで広く長く続いている。圧倒されるスケールだ。
奈川渡ダム湖(梓湖)
3ダムを過ぎると沢渡温泉。上高地はマイカー乗り入れが禁止されており、上高地を目指す観光客は沢渡にある駐車場に車を置いて、バスかタクシーでアプローチすることになる。我々はとりあえず白骨温泉が目的地なのでそのまま先へ進む。

沢渡の少し先に白骨温泉の看板があるから、そこで国道を外れて細い山道へ入って数キロ走ると白骨温泉街に到着。自分は車内でがっつり居眠りしてしまったので気づかなかったけど、温泉街入口からゑびすやまでは、すれ違い不能な極端に狭い道を走らされるみたいね。要度胸。


なかなかモダンな山間の宿

ではチェックイン。秘湯宿らしさを醸しつつもハード面はしっかり整備されている。ロビーはなかなかモダンな感じだ。WiFiを利用できるのはロビー付近のみとなっている。
ゑびすや ロビー
フロント近くに売店コーナーあり。お土産だけでなく缶ビールも売っている。お酒の自販機は見当たらなかったので、風呂あがりの一杯を求めるならここで買うことになるだろう。
ゑびすや 売店コーナー
玄関とフロントのあるフロアが2階で、我らの泊まった部屋は1階。これがまた12畳+4畳の予想外に高スペックなお部屋でして。たぶん空室状況をみてアップグレードしてくれたんだと思う。ありがてえ。
ゑびすや 檜風呂付き客室
さらに部屋付きのお風呂が半露天ぽくできそうな檜風呂だしね。なんとゴージャス。ただし出てくるお湯は温泉ではない。
客室の檜風呂
言うまでもなくモダンなシャワートイレと洗面台あり。金庫あり。空の冷蔵庫あり。WiFiは前述の通りロビーのみ。冷房という意味でのエアコンはないが、まあ必要のない土地です。夏でも部屋が暑い・夜が寝苦しいということはなかった。あと布団敷きはセルフでお願いします。

窓の外はこのような感じ。いかにも山間の宿である。
窓の外の景色

やわらかい白濁湯に包まれる満足感

白骨温泉のイメージにぴったりくる内湯

ゑびすやの大浴場は1階にある。男湯はつきあたり向かって右側の方で時間による男女の入れ替えなし。掲示された分析書には「含硫黄-カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩温泉(硫化水素型)、低張性、中性、高温泉」とあった。昼に立ち寄った泡の湯はぬるかったけど、ここは高温泉か。熱めかもしれんなあ。

脱衣所を経て内湯へ。宿の規模相応の大きすぎず小さすぎずの浴室には5名分の洗い場。カランは硫黄成分ですぐやられちゃって頻繁に更新しているだろうから新しめだし、浴室全体も鄙びすぎてなくて快適に利用できる万人向けの安心感。

左奥に5名規模の内湯浴槽があり、壁際に石組みの湯口が付いているのだが、クリーム色の析出物にびっしりと覆われて、すごいことになっている。浴槽の縁も同様のコーティングが施されたようになっていた。

浸かってみると予想外に熱くない適温。スペック的には41℃くらいのところ、温泉成分が刺激をマイルドにしてくれているのか、体感的にはもっと低い温度に思える。土地柄、夏でも早朝はちょっと冷え込んだりするんで、そういうときに入るとホッとする温度。

お湯は直球ど真ん中の乳白色で浴槽の底は見えない。あー白骨温泉に来たわー、って気分にぴったりくる。手でお湯をすくって嗅いでみたら、やっぱり軽いタマゴ臭がした。でもそんなに強烈じゃない。やや控えめのお上品なタマゴアピールだ。

ぬるめで気持ちの良い露天風呂

内湯の奥から外へ出ると露天風呂がある。こちらは4名規模。白濁で底が見えないし、やや深めなので一気に足を突っ込まないで、そろりそろりと入っていくべし。

お湯の特徴は内湯と一緒で温度だけが低めになっている。40℃を若干下回るくらいと思われる。夏はとくに気持ち良いね。白骨の湯を長く楽しめて良いのではないだろうか。泉質のためか温度のためか、成分豊富な硫黄泉の濃ゆい刺激というよりは優しく包まれるような浴感で、浸かっていて心地良いのが印象的だった。こりゃ癖になるな。

源泉かけ流しのお湯はオーバーフローして露天エリアの床一面に流れ出ている。床面はもともとコンクリートだったのかな。それが今ではクリーム色の析出物が千枚田を形成してえらいことになっていた。すげー。

露天エリアは四方すべてに塀がめぐらされているわけではなく、開けている方角もある。北アルプスの山々が~までは望めないにせよ、それなりに木々や山の緑が目に入る。頭上に屋根はなくて空が広がっている。これなら星見できるかなと思って夜行ってみたら、残念ながら雲に邪魔されて明るい星が1個見えただけだった。なんていう星かはわかりません。


長野へ来た感がよろしい食事

夕食に並ぶ信州の味

ゑびすやの食事は朝夕とも1階の食事処で。夕食の時間はいくつかのパターンから選べる。我々の希望時刻に行ってみると部屋番号に応じたテーブル席へ案内された。個室ではなく数組で1部屋みたいなレイアウトだったと思う。記憶が怪しい。

スターティングメンバーがこれ。前菜にじゅんさい。長野だけに凌ぎが信州そば。またお造りは信州サーモンと大岩魚だ。献立に書いてない牛肉ときのこは料理長のサプライズか。大変結構な品々でビールがうまい。
ゑびすやの夕食
途中で追加された鮎の塩焼きは蓼酢をつけてどうぞ。苦味のアクセントがいいやね。さらに茶碗蒸しならぬそばの実蒸し。温泉粥コロッケというのも変わってるな。
ゑびすやの夕食その2
あーもうお腹いっぱいでございます。締めは信州山形村産コシヒカリとデザート。かなり満足した。

朝食は名物の温泉粥を

朝食もなんだかすごいぞ。普通にご飯が茶碗に盛られている他、おかずとして白骨名物温泉粥が出てくるのだ。ボリュームたっぷり。蓋付きの鍋は湯豆腐だ。
ゑびすやの朝食
温泉粥は温泉くささや妙な後味もなくてどんどん食べられる。自分は朝からお米をがんがんいく方じゃないから、温泉粥の後に白米いけるかなと心配したけど、ニジマス甘露煮・そばの実なめこ・山芋などのおかげで無事完食した。他のメンバーのようにご飯おかわりまでは無理だったけど。

前夜の分とあわせて栄養はばっちり摂取した。今日はもう夜まで何もいらんな。

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夢の白骨温泉。その期待にしっかり応えてくれたゑびすや。もはや何も言うことはございません。良質の温泉と宿泊体験により、夢の上高地ツアーは幸先良いスタートを切ったのであった。