良泉と100年の歴史を誇る支笏湖畔の秘湯 - 丸駒温泉旅館

丸駒温泉旅館
札幌や新千歳空港からほど近い(あくまで北海道スケールで見た場合の話だが…)支笏湖畔に佇む秘湯宿、それが丸駒温泉旅館だ。かつては船で湖を渡っていくしか交通手段がなかったそうだから、相当な秘湯感が期待される。

そして湖の中に入ったのかと錯覚しそうな景色が広がる露天風呂。しかも源泉が湯船の底から湧き出る、新鮮さピカイチの足元湧出泉。などと売り文句を並べられては注目せざるを得ない。

訪れたのが観光シーズン真っ盛りの週末でお客さんが多かったため、喧騒とは無縁の大自然の真っ只中という風情は薄れていたが、その点を抜きにすれば看板に偽りなし。ハイレベルの温泉はさすがである。

丸駒温泉旅館へのアクセス

本州各地が梅雨開けを迎えた頃に行なわれた北海道グループ旅行の3日目、自分を含めた温泉斑とでも呼ぶべき小グループは札幌市内での野暮用を早めに切り上げて本隊を離脱、支笏湖へとレンタカーを走らせた。

札幌のどこから出発するかによるが、今回は定山渓温泉へ向かうのと同じ国道230号を南下した。途中で看板にしたがい国道453号へ入ってしばらくすると市街地が終わって山道ぽくなってきた。カーブやアップダウンが増えて景色は深い森の中の雰囲気となる。

札幌から1時間ちょっとで支笏湖が見えてきた。広い。湖の東岸に支笏湖温泉の各旅館が存在するのだが、丸駒温泉旅館は北岸にポツンとある一軒宿。我々は先に東岸へ行って遊覧船に乗ったりした後、来た道を若干戻るようにして、あらためて当館を目指した。

なお、千歳からだと道道16号を西進し、最初に東岸に着く形になり、所要時間は1時間くらい。


より身近になった秘湯宿

100年の歴史を伝える館内

頭の中でイメージしていたよりずっと大規模な旅館だったので驚いた。しかも駐車場は車でいっぱいだし、後からどんどんやって来る。観光にぴったりのシーズンかつ週末だからね。

こうして札幌や千歳から車で1時間そこそこでアクセスできる今となっては、秘湯というよりは手軽に行ける温泉なのだろう。「静かな湖畔の森の影」的な風情は薄まっていたが、夏らしい賑やかな活気もまた良しってことで。

車を止めた場所のすぐ近くに宿泊者用入口なるものが見えた。でも宿泊客だろうが日帰り客だろうが冒頭の写真の正面玄関から出入りするんだよね。じゃあこっちはなんだろう、今は使われていない旧玄関かな…ちょっとよくわからない。
丸駒温泉旅館 旧玄関?
正面玄関のフロントでチェックイン。ロビーは広くてモダンなつくりである。ほほう、大正4年創業でもう100年以上にもなる老舗なのか。
丸駒温泉旅館 ロビー
廊下には当館の歴史を伝える大きな写真パネルが飾ってあった。
廊下のパネル

客室は山側か湖側か…何を重視するかで選ぼう

フロントは2階に相当し、我々が案内された部屋は3階の山側8畳和室。窓の外は駐車場。景色を重視する方は若干料金アップするけど湖側の客室もあるからそちらをどうぞ。雄大な支笏湖がどーんと広がっているのが見えるはずだ(想像)。

ピカピカの新しさではないけど、相応に手入れされており問題なし。シャワートイレ・洗面所あり。金庫あり。別途精算ドリンク入りの冷蔵庫もあった気がするが自信なし。スマホやPCを使うにはコンセントがちょっと不足気味かな。WiFiは室内でバッチリ使えた。
丸駒温泉旅館 山側客室
最も印象深かったのはエアコンがなかったこと。べつにディスるつもりはなく、本来ならそんなものいらないくらいに涼しい避暑地なんだと思う。だがこの日は北海道すらも東京らへんと変わらない暑さにやられていた。

窓を開けて扇風機を回すしかないから、熱気ムンムンがどうしてもね。日が暮れたらずいぶんマシになったものの、寝る前に「ねんのため」と窓を締め切ったら、寝苦しくてまた開けてしまったくらいには暑い夜だった。地球温暖化の波はここにも。


環境・浴感とも申し分ないお風呂

湖水を活用した源泉かけ流し

当然ながら我らは温泉目当てで来ている。肝心なのは風呂だ。有料の貸切風呂はパスして一般客がデフォルトで入れる1階の大浴場へ行ってみた。

大浴場の手前にはテラス付きの休憩所がある。テラスへ出て支笏湖を眼前に拝もうとしたら、ガラス戸の錠の開け方がわからず断念という恥ずかしいオチ。
大浴場前の休憩所
男湯の脱衣所にはよくあるカゴの他、日帰り客向けの貴重品ロッカーも設置されていた。つねに客の姿がそこそこ見られるが、旅館の規模と満室っぽい状況にしては混み具合はさほどひどくない。よしよし。

掲示された分析書には「ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉、低張性、中性、高温泉」とあった。高温泉でも湖水を使った熱交換により加水することなく適温に冷ましています、との説明書きも。実際のところ当館の風呂は加水・加温・循環・消毒すべてなしの源泉かけ流しである。

3種類の温度に分けられた内湯

まずは内湯へ。洗い場は10名分。ハード面は新しい感じもあって癖がなく万人向けだ。窓際にトットちゃん、じゃなかった、4名サイズの低温風呂・8名サイズの中温風呂・4名サイズの高温風呂が並んでいる。

注がれるお湯は無色透明で温泉らしい温泉の匂いがする。とはいえ内湯を利用したのは、最後の上がり湯として低温風呂(実際はぬる湯までいかない適温)にちょっと浸かった程度。十分に満足のいく水準なんだけど、なにせ窓の外に見える展望露天風呂がここの真骨頂なのでしょうがない。

展望露天風呂の方へ出てみると、まず飲泉所があったから、当然飲んでみた。ちょっと鉄の味がするのを除けば、まずいわけじゃない。

内湯と全然違う展望露天風呂の濁り湯

この露天風呂は内湯とは明らかに性格が違っていた。木をベースにした、10名はいけるサイズの浴槽は緑色の濁り湯で満たされ、ところどころ析出物の千枚田ができかかっている。そういや飲泉所付近の床も千枚田模様だ。

お湯は若干熱め。自分はぬる湯派なのでもっとぬるかったら最高だったなあ。お湯の匂いを嗅いでみたらはっきりと金気臭がした。内湯とは全然違うぞ。なんだこの差は。違う源泉を使っているのか、それともこちらは源泉を熟成させてから提供しているのか。

さらに湖ぎりぎりに突き出すようにテラスが作られており、2脚の椅子が置かれている。すぐ目の前に迫る支笏湖を眺めようという趣向だ。風呂場の写真を撮るわけにはいかないので、先述の休憩所の窓越しに撮ったやつで代用したのが以下の写真。展望露天風呂だと湖面がもっと近いし視界を遮る木もない。これぞ絶景風呂。
支笏湖
右手に大きくそびえかかってる山は地図と照合すると風不死岳だと思われる。いつまでも見飽きない景色だが、日没・夜の星空・日の出はとりわけ記憶に残る絶景に違いない。当時は天気に恵まれなかったのでこれ以上はコメントできません。

支笏湖の水位とともに深さの変わる天然露天風呂

さて、当館にはもうひとつ、天然露天風呂がある。一般によく取り上げられるのはこちらの方だ。脱衣所から別の扉を出て、やや長い廊下を渡ると、立派な岩風呂が現れた。洗い場なし。

さっそく浸かってみ…あれ? 妙に浅い。そういえば「支笏湖の水位が非常に低いためお風呂は浅くなっています」との立て札があったな。天然露天風呂は支笏湖の水位とともに深さが変わる、ちょっと変わった風呂なのである。

この日はつまりほとんど寝湯みたいな状態だった。岩に白くこびりついた析出物で判断すると、深いときは立って入ることになりそうな勢い。

足元湧出のぬる湯が心地よい

お湯は無色透明でやわらかい感じがするし、ぬる湯のカテゴリーに入れられるくらいの温度。かつ石膏泉的な匂いが強め。これはいいね。当館では最も長湯向きだ。

しかも玉石が敷き詰められた底から源泉がぷくぷくと湧き出しているはずなのだ。同行メンバーはその場所を探り当てたようだが、自分には見つけられなかった。でもまあいいや。このお湯はたまりませんな。

周囲には石が高く積んであって湖が直接見えるわけではない。しかしなんとなく湖の存在を近くに感じることができるし、天然露天風呂にもテラスが設けられているから、見たい方はテラスへどうぞ。


料理にも支笏湖の水を活用

部屋でいただく夕食

丸駒温泉旅館の夕食は部屋出し。スターティングメンバーと、そのあとすぐ追加で運ばれてきたのをあわせてこれ。
丸駒温泉旅館 夕食
使われた食材がトマト・枝豆・魚介サラダ・リンゴ酢入りもずく酢など夏にぴったりで結構。鍋は四元豚の陶板焼き。

さらに縞ほっけも出てきた。なんとなく、北海道といえば縞ほっけと連想してしまうのは、ふだんの居酒屋を通じて洗脳されているのか。まあそんなことはいいや。うまけりゃいいんですよ。

予想通りにすぐお腹いっぱいになった。締めのご飯を控えめにしたのは仕方がない。ちなみに当館の飲料水と料理には支笏湖の水が使われているそうだ。

みなさん出足が早い朝食会場

朝食はフロント近くのレストラン「駒草」で。写真はチェックアウト直前に無人の会場を撮ったもの。
レストラン駒草
7時開始ちょうどに行ったら、すでにフライングゲット組で賑わっていた。まだテーブル席に空きがあって良かったぜ。湖が見える窓際の席は当然埋まってたけどな。

バイキング形式で取ってきたのがこれ。盛り方がシケてるのは放っといてください。朝からそんなに食べられないんで。
丸駒温泉旅館 バイキング朝食
他に「更科風のそばがあるぞ、あれはマストだな」と思って取ってきたのは、そうめんだった。最後はコーヒーでごちそうさま。

温泉の満足感が高い旅館

正直言うと最初は「静かな秘湯のつもりで来たらワイガヤな旅館に来ちゃったぞ」と思ってしまったのだが、馴染んでしまえばどうということはない。ガンダムのビームライフルも当たらなければどうということはない。

温泉を体験したら認識が一変した。まずお湯がいいし、支笏湖の景色とあわせ技でポイント倍、好きなぬる湯でさらに倍、もう篠沢教授に全部って感じ。おみそれしました。

夏でも週末じゃなく平日ならもっと静かで秘湯感あるかもしれないし、春秋寄りならさらに期待できる。雪が絡んでくる季節はアクセスが厳しそうだなあ。どうなんでしょう。


おまけ:支笏湖水中遊覧船の補助席(?)に乗ってみた

丸駒温泉旅館に行く前に支笏湖水中遊覧船に乗った話を手短に。東岸の駐車場に車を置いて(500円)、船乗り場へ行くと当日の便は満席表示がずらり。やばい、支笏湖なめてたわー。

水中を見られない船上デッキ席でよければ、との条件を飲んで、次の便に乗せてもらった。1620円。
支笏湖水中遊覧船
30分の航海に出発。支笏湖の水は岸近くが緑色で、少し離れると深さが急に変わる関係で青くなるそうだ。「はい、今から青くなりまーす」との声がかかった通り、急に青くなった。しばらく進んで再び岸へ近づくと柱状節理が現れた。
柱状節理
我々を除く一般客は水中の柱状節理を見ることができたようだ。船はここで引き返す。帰りは我々も船底の席へ入れてもらうことができて、ようやく水中観察、といっても青いだけで何も見えませんが。
支笏湖の水中
終点近くになると水深が浅くなって緑の世界となり、湖底の砂地にできた縞模様(波紋)などを見られる。最後は魚影がお出迎え。ぎょえー。
支笏湖の水中と魚影
まあそんな感じでした。