囲炉裏料理の源泉湯宿が奏でる平家物語 - 湯西川温泉 平の高房

湯西川温泉 平の高房
栃木県の湯西川温泉は平家落人伝説の残る山深い里である。ものすごい秘湯なんだろうかと以前から気にはなっていたのだが、このたび梅雨入り時期のグループ旅行にて訪れることができた。

宿泊先の「平の高房」は温泉街の最奥部、いや温泉街を突き抜けて外れてしまったといってもいい場所にある。なので奥湯西川温泉とも呼ばれるようだ。

平家の栄枯盛衰のうち栄・盛に相当するかのような館内は一見の価値あり。食事は囲炉裏という特徴がある。そしてお湯はしっとりした美肌の湯。その総合力にはきっと多くの人が満足することだろう。

湯西川温泉「平の高房」へのアクセス

新しい道路のおかげで行きやすい

平家落人伝説の里と聞くと長野・新潟県境にまたがる秋山郷の泣きたくなる狭隘道路を思い出して身構えてしまうが、同じ秘境でも湯西川温泉は新しい道路が整備されてアクセスが容易になっている。

前泊地の奥鬼怒温泉郷・八丁の湯を出発した我々は雨の降る中、川俣ダム→川治ダム→五十里ダムを経由して県道249号へ入ると、すぐに「道の駅 湯西川」が現れた。

トイレ休憩の後、道の駅を出発。ここから温泉街までは20分程度。湯西川ダムの建設にともなって付け替えられた新しくて快適な道路だから非常に楽ちん。昔は条件の悪い道で大変だったようだが。

温泉街を過ぎてさらに奥地へ

温泉街も昭和レトロな寂れ方はしておらず、平成の(令和とまでは言わない)オープンな雰囲気が漂っていた。温泉地としては現代のニーズに対応して健闘しているんじゃないかな。第一印象で適当なことを言ってるだけだが。

温泉街を抜けてさらに山奥へ。人家もまばらになってきたところに平の高房があった。平家の屋敷を見たことはないけど門構えがいかにもそれっぽい演出。いいですねー。
平の高房 入口の門
なお鉄道で行く場合、野岩鉄道の湯西川温泉駅が最寄りとなる。当駅は上述の道の駅と合体したようなつくりとなっており、つまりは駅を出てもすぐに温泉街ではない。駅からバスに乗り換えて終点・湯西川温泉まで20分。運行本数に注意。

平の高房はさらに奥地だから、バスの終点まで送迎をお願いすることになるだろう。送迎なしで歩くと20分かかるそうだ。積雪がある季節はともかくとして、車で行くに越したことはないね。


いろいろと凝っている館内

いきなりゴージャス

さて入館。いきなり源平合戦ぽい絵が飾ってあった。
平の高房 エントランス
フロントまでの階段には、なんかお宝のようなものがいろいろと展示されている。
フロントへの階段
ゆったりと作られたロビーがこれまた洒落ている。いろいろと凝ってるな―。と感心しつつチェックイン。
平の高房 ロビー
ここは日本秘湯を守る会の会員宿である。当会のスタンプ帳を持っている我らにとってスタンプ集めの機会ではあったものの、とある割引サービスを受けられるプラン(ただしスタンプはもらえない)を今回は優先した。

WiFi以外は完璧に整った部屋

フロントからさらに階段を上がっていくと、一般的なホテルや旅館とは違ったハイソな雰囲気の廊下に出た。なんじゃこりゃあ。
ハイソな廊下
我々はその中の部屋のひとつに案内された。8畳+4.5畳+広縁の和室。バス・トイレ付き。きれいに管理されており快適性は十分。
平の高房 客室
人数に対して広めの部屋を用意してもらった気がするし、他とは違う廊下の雰囲気からして、ちょっとグレードのいい部屋を割り当ててくれたのかもしれない。ナイス。

金庫あり・空の冷蔵庫あり。エアコンなし。暑さ寒さがくるくる入れ替わる不安定な天候が続いてたから、温風ヒーターと扇風機の両方を用意してくれていたところ、結局は温度調節なしで過ごした。あと窓の外はこんな感じ。網戸越しですが。
窓からの眺め
携帯の電波状況はキャリアによって全然違う。またWiFiはロビー付近のみ対応。ってことで宿泊中は各自スマホいじりやPC作業のためにロビーまで遠征することが多かった。


万人向けのアルカリ泉を源泉かけ流し

階段を下りていく内湯の浴室

平の高房のお風呂には、男女別内湯・男女別露天風呂・貸切露天風呂がある。貸切露天は泊まり客1組につき1回・40分を無料で利用することができる。早い者勝ちの予約制だ。我々は17時からの時間帯を予約しておいて、まずは内湯へ向かった。

内湯の脱衣所には一人分の棚ごとに小さな貴重品ボックスが付属している。なかなか気が利いてるね。また掲示された分析書によれば「単純温泉、弱アルカリ性、低張性、高温泉」とのこと。

浴室は階段を下った半地下にある…いや、エントランスからフロントまでの高低差を考えれば浴室こそが地上階といえる。そこにカランが6つと、向かい合わせに2名×4組詰めていくことで8名いけそうなタイル浴槽があった。

やや熱めのヌルヌル湯

お湯は無色透明で、微妙に濁ってるよと言われれば、そうかなあ程度。ごくわずかに湯の花が漂う。匂いは特になし。入ってみると若干ヌルヌルする。そういえば美肌温泉ランキングで1位を取ったという内容のポスターが廊下に貼ってあったような気が。

若干熱めながら適温のお湯は万人向けだろう。ぬる湯に長く浸かるのが好きな同行メンバーは「熱い…」と漏らしており、やはりぬる湯好みの自分も正直いうと同様の感想を抱いた。しかしまあ、30分は無理でも4,5分なら連続で浸かっていられるから良しとしよう。

内湯にも4~5名規模の露天の岩風呂が付属している。湯気がこもらない分だけこっちの方が入りやすい。周囲を塀に囲われているため眺望はない。時おり休憩をはさみつつ何セットかの入湯を繰り返して内湯は終了。

より温泉らしさが増す、貸切露天風呂・金精の湯

17時になるのを待って貸切露天風呂へ突撃。本館からいったん外へ出たところにある。我々が行ったのは子宝の湯と金精の湯と2箇所あるうちの後者。フロントで鍵を借りて脱衣所へ入ったら鍵をかける。

金精の湯は3名規模の岩風呂だった。岩のお湯が触れる場所はあちこち茶色っぽく変色している。やっぱり塀に囲われているとはいえスペシャル感は増している。

入ってみると内湯よりも心持ちぬるめになっているようだった(それでも適温の範疇)。しばらく浸かっていると少々の泡付きが確認できる。それに無臭ではなくて単純温泉によくある温泉の匂いが感じられた。いいじゃないですか。

頭上は半分屋根に覆われていたはずだ。当時は雨だったので助かった。

ベストチョイスは一般露天風呂

夕食後と朝食前には一般の露天風呂へ行ってみた。ここも本館からいったん外へ出た駐車場前に建物がある。
駐車場前の一般露天風呂
結論から言うと、この露天風呂が一番良かった。塀に囲われているのは同じだが、20名いけそうな広い岩風呂。岩はやはり茶色がこびりついており、さらに湯口付近はドス黒く変色していた。

浸かってみると金精の湯よりもさらにぬるい(まだ適温の範疇)。しかも泡付きは一段とパワーアップしており、温泉らしい匂いはより一層強まっていた。こいつは本物だぜ。

湯船の底の一部に藻が生えているような、移動の際に足裏にヌメッとした感触が伝わるのはご愛嬌。とにかく泉質重視の方はこの露天風呂を一番高く評価するだろう。

実際、脱衣所に「源泉湯宿を守る会・源泉100%かけ流し認定浴槽」ステッカーが貼られていた。他の浴場にはなかったような…単に見落としただけかもしれぬが…。誤解を広めるといけないので一応書いておくと、宿の情報によれば当館の温泉はすべて源泉かけ流しである。


囲炉裏のもとでいただく平の高房の食事

囲炉裏の串物だけじゃない、美味がいっぱいの夕食

平の高房の食事は朝夕とも1階食事処で。入ってすぐのところに囲炉裏がいっぱい並んだ畳の部屋があるけど、ここは団体さん向けなのかな。今回の客はみんな奥のテーブル席へ通された。
団体向け(?) 囲炉裏付き大広間
各テーブルの中央にも囲炉裏がセッティングされている。夕食のスターティングメンバーがこれ。お造りは八汐鱒のたたきと日光湯葉。
平の高房 夕食
囲炉裏に刺さっている串は、岩魚塩焼き・厚揚げ・うるち米を丸く固めたばんだい餅・一升べらに盛ったつくね。串のつかみどころを間違えると結構「熱っ!」となる。おかげでいい塩梅の温まった状態で食べることができた。

鍋物は金目鯛・海老・豚・鶏・野菜などが入った寄せ鍋。その後も煮物・揚物と続いてすっかりお腹いっぱい。最後のデザートを考えたら締めのご飯のおかわりは自重せざるを得なかった。せっかくの日光コシヒカリが残念。

お上品で美味なる会席料理をいただいて、気分は我が世の春を謳歌する平家一族、といったら大げさか。

朝食も豪華絢爛

朝食もすんごい品数あるんですけど。ご飯のお供はとろろと鮭で十分なくらいだが、山菜が何種類かあるのがにくいぜ。
平の高房 朝食
蒸し物もあわせると朝にしては結構なボリュームだ。ご飯に加えて味噌汁もおかわり自由と聞いて、「頑張ってみようかな」と一瞬気合を入れかけたものの、ひと通り食べ進むうちに自分には厳しそうだとわかった。

目指すべきは最大でなく最適であるとのP.F.ドラッカーの教えに従い、無理せずごちそうさま。食後はロビーにてセルフサービスのコーヒーが提供される。優雅ですな。


万人におすすめできる宿

湯西川温泉は事前に想像していたよりも気軽に行ける秘湯だと感じた。しかも年中なにかしらお祭りイベントをやっているようだし、行く動機づけには事欠かない、なかなか面白いところだ。

そして今回泊まった平の高房は日本秘湯を守る会にふさわしい水準を備え、客観的にいって万人におすすめできる。お湯がもう少しぬるければ…てのは個人の好みだし、アンケートを取れば最大多数が支持するのはあの温度だろうからね。

そうして、かつて平家の皆さんも落ち延びながらあの温泉に浸かったんだろうか、などと想像してみたりするのであった。