宇宙はまじでヤバイよ - 「マルチバース宇宙論入門」を読んで

宇宙
ヤバイ。宇宙ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。…で始まる有名な(?)「宇宙ヤバイ コピペ」。替え歌のごとく一部が改変された派生種を含めて、ネット上に転がっているこの文章を何度か見かけた。

だが本当に宇宙ヤバイのだ。こんなヤバイところに住んでる我らも相当ヤバイ。しかもヤバイ我らの無数のバリエーションが重なり合って存在するのが宇宙の真の姿らしいというから、マジヤバイ。

もう宇宙ってのは一体なんなのか、それを考えると夜眠れなくなっちゃう。ところで地下鉄の電車はどこから入れるんですかね。

宇宙のヤバさがわかる本

最近も「宇宙ヤバイ コピペ」に関するネット記事が出ていた。
かのコピペ文からも宇宙のヤバさは十分伝わってくる(ような気がする)のだが、プロの物理学者が書いたこの本で明かされる宇宙像も超ヤバイ。
  • 野村泰紀「マルチバース宇宙論入門 私たちはなぜ<この宇宙>にいるのか」(星海社新書)
新書だから・数式を使わないからといって、ふわっとした比喩で終わらせず、宇宙論の専門的な概念と最新の成果を丁寧に説明しようと試みている。まだ十分に検証され受け入れられたとはいえない学説にまで踏み込んで紹介してる点は意欲的であり、本書の内容に刺激を添えている。

だから本書を読む前に、一般向けの平易な解説書でよいから、量子力学・相対論・素粒子論・宇宙論あたりの基本的なキーワードに触れておくとよいだろう(自分もたいして理解しているわけではない、触れただけ)。

そうすれば、本書で展開されるまるでSFのような宇宙の描像は、プロが正面から学問に取り組んで論理的に導き出した帰結なのだということをより一層実感できるとともに、宇宙のヤバさをより深く味わえるに違いない。


無限のマルチバース

マルチバースとは、もちろんスマホゲームのタイトルではない。従来考えられてきた唯一の宇宙(ユニバース)に対峙する概念としての多宇宙を指す。

つまり我々のいる宇宙以外にも多数の宇宙があるというのだ。しかも超多い。多いなんてもんじゃない。無数。無限といってもいい。なにしろ永久に加速膨張を続ける宇宙の中でポコポコと宇宙の卵(泡宇宙)が無限に生まれてくるのだ。

しかも泡宇宙までもが加速膨張を続けて、その中にまた無数の泡宇宙を生じたりなんかしちゃったりする。その泡宇宙の中にもいずれ無数の泡宇宙が…。なにこれヤバイ。ねずみ講もびっくりの無限連鎖スキームじゃん。親は儲かってしょうがないね。

それだけじゃない。泡宇宙を外から見ると、たしかに小さく生まれたあと膨張して大きくなっていく。だが内部にいる者から見ると、その泡宇宙は生まれた時点でもう無限に広がっているんだって。桐島有限やめるってよ。

膨張するくせに最初から無限って意味がさっぱりわからん。しかしそれもペンローズ図というヤバイ絵を描いて相対論的に解釈すると、なんら矛盾なく両立することが示される。内部の観測者にとっての「無限の遠く」は外部の観測者にとっての「無限の未来」に相当するらしい。ポエムかよ。ヤバイ。まじでヤバイ。


人間原理というヤバイ当たりくじ

それだけじゃない。世間一般でもときおり名前が出てくる有望な超弦理論を考慮すると、泡宇宙は10の500乗級というとんでもない数の種類があり得る。ギガとかテラとか言ってる場合じゃないくらい多い。ヤバイ。

種類による違いは物理定数の違い的なことらしいが、それだけ莫大なバリエーションがあれば、たまには「銀河と星が生まれることが可能で」「たまたま太陽から程よい距離に地球が生まれ」「進化の果てに登場した知的生命体が宇宙について考える」宇宙があってもおかしくない。

つまり、この宇宙が我々の存在にとってあまりに都合よく絶妙に出来すぎているように見えるのは、たまたま10の500乗級の当たりくじをひいた結果にすぎない。こうした考え方を人間原理という。超ヤバイ。運を使い果たしすぎてもう一生何も当たる気がしない。どうしてくれるんだ。


マルチバースと多世界

それだけじゃない。マルチバースが無限に広がっているとすると、光速をもってしても到達することができない時空の遠方領域は見ることもできないし、情報をやり取りすることもできない。

そういった遠方領域は果たして存在するといえるのか? どうやら存在しないと考えるべきであるらしいのだ。ヤバイ。遠くへ行っちゃったさっちゃんは存在しないってことだ。ちっちゃいからぼくのこと忘れてしまうんだもんな。

ヤバイ。マルチバースは無限だけど遠方領域は存在しない…だと…? なんだこりゃ。そのへんをすり合わせるアイデアが、量子力学的重ね合わせ状態に対するエヴェレットの多世界解釈の応用だ。

無限のマルチバースとは、無数の泡宇宙の量子力学的重ね合わせであり、各々が「遠方領域は存在しない」と物申す多数の世界を確率空間上で重ね合わせた総体だと考えればいいのだ。まじヤバイ。わかったようで、まるでわけがわからない。

ヤバイ。宇宙ヤバイ。まじでヤバすぎて、あーもう頭がいたい。考えすぎは短命のもとだって、昔マンガでらんぽう君が言ってたしな。今日はこれくらいにしといたるわ。