万人向き本館と「ぬる泡」療養湯の二刀流 - 湯郷鷺温泉館

湯郷鷺温泉館
中国地方で唯一、温泉未踏県として残ってしまった岡山県を、このたびクリアしてしまうことにした。当時の世情により航空券がかなり格安で売りに出ていたことも大きい。温泉にはちと暑い季節ではあったが、この際やってしまいましょう。

最初の訪問先は美作三湯の一角をなす湯郷温泉の鷺温泉館。温泉街の総元湯だというから、当館のお湯を各施設へ配湯しているんだろう。湯郷温泉を体験する上でここへ行っとけば間違いはあるまい。

しかも「療養湯」という名前の別館もある(別料金)。小さい湯船がひとつあるだけのシンプルなつくり。でも湯質は最高に良い。エンターテイメント性よりも純粋なクオリティを求める方におすすめだ。

湯郷鷺温泉館へのアクセス

東京方面から湯郷温泉となると、岡山駅か岡山空港からレンタカーが無難だと思う。もし自分が筋金入りの乗り鉄ならJR姫新線・林野駅まで行ってからいろいろ駆使しようとしたかもしれない。だが今回は1泊2日であちこち回らなきゃいけないんでね。素直にレンタカー。

空港から実際にたどったルートは把握していない。カーナビに鷺温泉館をセットして指示に従うだけの簡単なお仕事です。まあおそらくはグーグルマップで示される最短経路を通ったんだと思う。途中で吉井川にぶつかったなーと思ったらいつの間にか吉野川と名前が変わったりする中、順調に流れて1時間ちょっとで湯郷温泉に着いた。

温泉街の道は狭くなってるところがあるから注意。当時は街全体に人影がほぼなくガラーンとしており、その点は運転しやすくて助かったものの、商売する方としては辛いところだろう。

鷺温泉館の駐車場は第4くらいまである感じで収容力は十分(そもそもこの時はどこでも止め放題)。近くに足湯コーナーが見えたから近寄ってみたら、お湯を張っていなかった。こんな誰もいない日にやったってしょうがないもんなあ。
足湯コーナー
足湯の奥に写ってる建物があとで紹介する療養湯である。


これが湯郷鷺温泉館だ

動か静かはその時しだい

さっそく本館へ入場。自販機で入浴券700円を買い、フロントで下足箱の鍵とともに券を渡すと、脱衣所ロッカーの鍵をくれる。荷物や貴重品の別の保管先としては、自販機・ゲームコーナーの脇に無料の荷物用ロッカーがあるし、フロントの目の前には貴重品ロッカーもある(フロントに申し出ると鍵付き腕輪を渡してくれる)。

お土産コーナーのところに並べてあった勝央町のぶどうがいかにもうまそうだったのを妙に覚えている。正面奥には食事処。

さて、張り出された説明書きによれば、大浴場には「動の湯」「静の湯」の二つがあり、週ごとに男女を入れ替えているとのこと。何が違うのかは正直わかりません。当時は動の湯が男湯だった。

脱衣所では鍵の番号に対応したロッカーを使う。掲示された分析書には「ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」とあった。加水なし、加温・循環・消毒はたぶんあり。

飲泉場を持つ内湯

浴室に入ってすぐ目の前にかけ湯。その隣に源泉がポタポタ落ちている飲泉場と思われるものがある。コップを置いてないし飲めるとも書いてませんがね。持ち帰り云々との注意書きがあったし。で、自分は飲まずに、手の平に受けたしずくの匂いを嗅いでみた…おっ、硫黄ぽいタマゴ臭がするぞ。こいつはいいんじゃないの。

左手には15名分の洗い場。右手にはまず4名分のジェットバス。ここは入ってないためコメントできず。おそらく他の浴槽と同様の特徴+ジェットだろう。その向かいに6名規模の内湯メイン浴槽がある。底は石造り、縁のところは木製でそれっぽい雰囲気になっている。

浸かってみるとややぬるめの適温。あまり熱いと夏は辛いから温度面はいい具合だ。お湯の見た目は完全な無色透明。泡付きや湯の花は見られない。塩素臭が強めに出てしまっているのが惜しい。白湯と区別がつかなくなっちゃうからね。

剣豪にちなんだ露天風呂

続いて露天エリアへ。こちらは大小5種類の岩風呂がある。一番手前にあるのが最大サイズかつ屋根付きの円形メイン浴槽。縁に沿って10名が並んで入れるだけでなく、中央部が別区画として小さな円形に仕切ってあって、2名くらい入れそうに見える。同心円的な2層構造だ。

お湯の見た目や温度は内湯と同じ。塩素臭が気にならないくらいまで後退しているのは良い。この点は露天の他の浴槽も同様であった。

メインの奥には3名規模の四角い浴槽。ここも屋根付き。武蔵の湯なる名前が付いている。何か他とは違う特徴があるのかと思って入ってみたが、そういうわけではないようだ。何故に武蔵の湯か?といえば、剣豪宮本武蔵の出生地を美作とする説にちなんだものと思われる。

三段シリーズの露天風呂もあるよ

露天風呂の残り3種類はシリーズ物になっている。メイン浴槽の右手に段々畑のように異なる高さで3つの岩風呂が設置されていた。上段の浴槽からあふれたお湯が中段浴槽へ、そこからあふれたお湯が下段浴槽へ、順次流れ込むようにできている。

下段は6名規模。屋根なし。目の前に人工滝のセットがあるから滝見風呂といえなくもない。中段は1名用で屋根なし。滝を中間的な高さから見ることになる。上段は1名用で屋根あり。お湯の流れからして上段→中段→下段の順にぬるくなっていくような気もしたが、浸かってみると違いはわからなかった。

露天エリアは壁に囲まれているけど開放感は相応にある。そういえばとんぼがたくさん飛んでいたな。風情があっていいんんじゃないの。万人向けでなかなかよくできた風呂だが、飲泉場を体験してしまうと「あの源泉を溜めた風呂に入ってみたい」と思ってしまうのは、欲をかきすぎか。


クオリティがすごすぎる療養湯

源泉かけ流しを提供する本格派

本館に続いて別館の療養湯にも行ってみた。正確には「村湯・療養湯」で、村湯は地元民専用、療養湯は外部の人間も利用可能。
村湯・療養泉
入ってすぐのところに券売機があるから療養湯用の入浴券を買う。700円。こちらは本館と違ってアットホーム感のある小規模施設だから、混雑時には入場制限がかかるかもしれない。靴を脱いであがると洗面台風の飲泉場がある。コップ類が置いてないのを見て、なんとなく飲むのを遠慮してしまった。

左手に進むと療養湯の浴場。脱衣所にはたしか6台ほどの鍵付きロッカーがあったと思う。同時に3名いることがなかなか難しいくらいの広さ。また分析書によれば泉質は本館と同じ。ただしこちらは100%源泉かけ流しってのがプレミアム。

望んでいた通りのすばらしいお湯

レトロ感のある浴室も広くはない。定員3~ギリギリ4名ってところだ。洗い場は1名分でシャンプーや石鹸は使用禁止だから置いてない。基本的に銭湯ではなく文字通り療養のため湯に浸かるのが目的の風呂なのだ。向かって右側に1名用の小浴槽、左側に2名~詰め込んで3名までの中浴槽。

小浴槽はすでに満員御礼だったので1名分の空きスペースがあった中浴槽へもぐり込む。おお、ぬるい。体温程度の不感温度ってやつだな。しかもお尻のあたりにもっと冷たい流れを感じる。浴槽の角っこの底近くに空いた穴から源泉が噴き出してきてるようだ。夏には最高だし冬でも十分いけそう。

お湯は無色透明で、たまに黒い粒が浮かんでいるのは湯の花か。匂いを嗅ぐとはっきりとしたタマゴ臭があって大変よろしい。まさに本館の飲泉場のやつ。

出るに出られなくなる魔力

こりゃあいいやとしばらく浸かっていたら、いつの間にか腕を中心に泡がびっしりと付着していた。なんと強い泡付きもあるのか。パーフェクトじゃないか。お湯はぬるくて気持ちいいし、いつまでも入っていられる。次の目的地もあるし、あと5分したら出よう、いやあと5分、あと5分…どんどん滞在が延びていった。

途中で先客がいなくなって独占状態になったので小浴槽も試してみた。冷たい流れが直接ぶつかって来ないくらいで本質的には温度含めて中浴槽と同じ。

さすがに次の予定が気になって40分ほどで出たが、時間が許せばまだまだ入り続けたかった。お湯のクオリティは間違いないし、ここには来てみて良かったといえる。このような名湯が近代化の波に流されずに残り、しかも通りすがりの者に開放されているのは、まったくありがたい話だ。