自由の旗の下に。お風呂ずきが集う源泉宿 - 伊東温泉 大東館

伊東温泉 大東館
夏もめげずに温泉一人旅。今回の行き先は伊豆。初日に泊まったのが伊東の市街地に立つ「お風呂ずきの宿 大東館」である。お風呂ずきの宿というサブタイトルを冠する通り、ここは宿泊客にお風呂を楽しんでもらうことを主眼に置いているから、ぬるめの湯とあわせて、自分にはぴったりだ。

また大東館は朝食のみのサービスで夕食は提供していない。旅館の食事も楽しみたい派の自分にはどうなんだろうと気になったが、いろいろと融通が利き自由なのが良くて、これはこれでありなんじゃないかと思った。

大東館の設備と部屋

大東館へのアクセス

JR伊東線と伊豆急行が接続する伊東が大東館の最寄り駅。駅ロータリーから下田方向へ10分あまり歩いていくと、小さな橋を渡った先に「星野リゾート 界 伊東」の大きな建物が見えてくる。

大東館はその1ブロック先だ。あちこち目につく陽気館というホテルの案内板に従って行けばOK。隣だから。道に迷う危険は少ないだろう。

お風呂目的を前面に打ち出した設計

さっそくチェックイン。玄関ロビーの隣が朝食会場になっていて椅子とテーブルが並んでいる。他の時間は風呂上がりの休憩所として使われるようで、座って水分を摂ったり談笑したり漫画を読む人の姿がちらほら見られた(そばにコミック書庫がある)。
朝食会場兼湯上がり休憩処
ロビーの天井には「寝風呂・露天風呂・五右衛門風呂」の表示板が取り付けられていた。大東館には3つの貸切風呂(寝・露天・五右衛門)があり、予約は特に必要ない。表示板のそれぞれの名前の下のランプが消えていれば空室を意味する。誰かが中に入って鍵をかければランプが点くという寸法だ。

朝食会場の脇には自炊用の水道とコンロがある。夕食が出ないからここでカップ麺のお湯を沸かしたり軽くなにか作ってもいいわけだ。ちょっとした湯治場スタイルである。

ぜいたくな10畳&源泉内風呂の部屋

大東館の本棟は4階建て。大浴場がある隣棟は6階建て。今回案内された部屋は本棟の4階だった。中は10畳の和室+広縁。清掃が行き届いてきれい。最初から布団が敷いてあった。
大東館10畳和室
なおトイレ・洗面・内風呂付きのフル装備。しかも内風呂にも源泉が引かれているとのこと。こいつはすごい。ただし大浴場で十分満足というか、そっちが目当てだったので内風呂は利用しなかった。
大東館 源泉内風呂
あとWiFi環境がばっちり整っている(無料)。快適にネットを利用できた。あと窓からの眺めは普通の市街地。温泉街風でもないし海も見えない。まあそういう要素は求めていないからOK。


お風呂ずきも大満足の温泉

ちょっと怖い防空壕トンネル

では風呂へ参ろう。部屋に金庫はないが、本館エレベータを降りてすぐ目につくところに暗証番号式の貴重品ロッカーがあって、そこに部屋の鍵をしまっておける。

まず昼のうちに五右衛門風呂へ行っておきたかった。なぜなら五右衛門風呂までの通路に本物の防空壕跡が使われていたからである。暗くて狭いトンネルのような防空壕跡を行かねばならないのだ。はっきりいって夜だと怖い。

いや昼もそこそこ怖い。なので通路の途中に立つ、温泉や防空壕についての説明板を華麗にスルーして、そそくさと五右衛門風呂へ向かう。ふぅ、どうやら無事に通り抜けたようだ。

湯温の異なる2つの五右衛門風呂

五右衛門風呂は一人用の洗い場と鉄釜風のお一人様サイズの丸浴槽が2つ。片方は熱めの湯で好みじゃないからもう一方のぬるめの浴槽に絞って入った。浴室は家庭の風呂よりは広いけど密閉感があるから閉所が苦手な人はつらいかも。

貸切風呂の制限時間は40分だけど20分くらいで満足してあがった。五右衛門風呂の奥のドアから寝風呂へ行けるようなのでドアを開けるとその先は…なんだ旅館の廊下に直結してるじゃないか。防空壕を通らなくても五右衛門風呂に行けるってことか。

マイルドなぬるめがありがたい京の湯

寝風呂は使用中だったため次に大浴場へ向かった。22時を境に男女が入れ替わる方式で、この時の男湯は京の湯と名付けられた内湯のみのタイプ。脱衣所で分析書をチェックすると、3つの源泉を混合した「単純弱アルカリ温泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。

京の湯は5つのカランがあって大きな浴槽は2つの区画に分かれている。一方が熱め、もう一方がぬるめ。ここも専らぬるめに入った。お湯は無色透明で強い特徴はない。万人向き・湯治向きのマイルドな温泉でダラダラとつかっていられる。

浴室は広々していて天井は高く、全体にきれいにされていて気分良くすごせる。人の出入りはそれなりにあるけど多くて2~3人って感じで込み合うことはない。独り占めになる時間帯もあった。

ぬるいのは夏にはありがたい。もう1~2℃低かったら不感温度帯になって、本当にいつまでも入り続けただろう。

自分だけの空間で寝放題

夜に寝風呂を試してみた。浴室のつくりは五右衛門風呂と似ている。丸浴槽のかわりに長方形の浴槽があった。背の高い人でも窮屈になることはないだろうサイズ。

お湯の特徴や浴感は他のところと一緒。誰にも気兼ねなく誰にも邪魔されず寝放題できる温泉はなかなかないから、寝湯が好きな人はどうぞ。個人的には露天で寝転がるという技(後述)を見つけ、そっちの方が気に入ってしまった。

流れの湯の露天トド寝が大ヒット

貸切の露天風呂はまあいいかなと思ってパスした。そして「流れの湯」と名付けられたもう一つの大浴場は翌朝に2度入った。流れの湯の内湯は京の湯と似たようなもの。加えてこちらには露天風呂がある。

屋根付きの露天風呂は湯口の近くが熱い。湯尻へ行くといい感じでぬるくなる。独占できたし開放的ないい気分で入れたけど、一部が深さ数センチほどに浅くなっているのを見てふとひらめいた。

これはトド寝をしてみろってことじゃないか。体勢を保てる場所を選んで低い縁石に頭を乗せ仰向けになった。前をタオルで隠すと頭に敷くタオルがないのは仕方ない。

屋根のおかげでうまい具合に日陰になっている。背中側だけが湯につかり、お腹側と頭は朝の爽やかなそよ風がやさしくなでる。こりゃあ気持ちええわー。寝風呂よりも気に入ってしばらく横になっていた。当泊最大の発明かもしれん。


大東館の自由な食事スタイル

夕食は近くの手打庵・桜木町通り店

大東館では夕食が出ない。一応おすすめの食事処情報は紹介されているが、その中から選ぼうが他の店で食べようがコンビニ弁当を買って来ようが自販機のカップ麺ですまそうが断食しようが自由だ。

なんか風呂に入ったら伊東らしい魚料理を求める気持ちが緩んでしまい、手軽にそばを食べたくなった。そこで紹介情報の中から一番近いお店「手打庵 桜木町通り店」へゴー。宿から徒歩数分だ。

紹介情報を参考に人気No.1という鴨せいろを注文。あとはそばづくしを気取ってそば焼酎のそば湯割り。うむ、なかなか乙ですな。鴨せいろは見た目以上に量が多くて結構お腹がふくれた。
手打庵 鴨せいろ
そばづくしを極めたい方は、天ざる・そば海苔巻き・そば菓子のついた「そば三昧」なるメニューがある。鴨せいろから想像するに相当な量じゃないかな。

ごちそうさまの後はコンビニで軽いつまみとお酒を買って帰った。こういうことができるのはいいね。

朝食はビュッフェでほのぼのと

大東館の朝食は1階ロビーで。7時になると洋食ビュッフェスタイルで料理が並び始める。席はどこでも自由。7時すぎに行って「ぼっち」向きの窓際2人がけテーブルについた。

この日はピーマン肉詰め、スクランブルエッグ、ベーコン、ひと通りのサラダ用野菜、食パンとロールパン(トースト可能)、他にもあったと思う。あとはスープ・オレンジジュース・牛乳・コーヒー・紅茶。そんなに朝から食べないし、不足はない。
大東館 朝食ビュッフェ
食べながらふと窓の外を見ると門の近くで猫がごろ寝していた。そばを通りかかる杖をついたおばあさんのゆっくりした歩みをじーっと見つめる猫。ほのぼの風景を眺めながらの朝食となった。


気ままな滞在には最適の宿

夕食なしではつまらないんじゃないかと思ったが、自由がきいて結構よかった。宿泊代も6000円台になったから得した気分。その分を外で豪勢に飲み食いするもよし、そのまま旅全体を安くあげるもよし。

夕食の件やその他の運営スタイルからして、大東館はビジネス利用・一人旅・湯治目的など観光客のボリューム層からはみ出た者を丁寧に拾おうとしてくれるように見える。加えてしっかりした温泉の提供。ありがたい。

大東館を基地にしてしばらく自由気ままに滞在するといかにも楽しそう。昨日は下田まで足を延ばしました、今日は雨だから風呂と漫画三昧でダラダラするぞ、ゆうべはそばを食べたから今宵はパーッと寿司でもいくか、なんてね…ちくしょー、やってみたいぞ。