今回の道北遠征の主目的は豊富温泉だった。稚内から40kmほど南の豊富町にあり、石油成分が混じる珍しい温泉らしい。石油の温泉ってどういうことだ? 入っても大丈夫なのか? 石油臭いのか?…俄然興味が湧いてきたおじさん、何年も前から検討していたものの、場所が場所だけに踏ん切りがつかず永遠の先送り状態となっていたのを、ついに「えいや!」と行動に移したわけ。
加えて当温泉はアトピーに効く「奇跡の温泉」という評判で遠方から湯治しに来る者も少なくないとか。そんな異色の温泉をたっぷり体験するため、旅館とは別に町営の日帰り施設にも立ち寄ることにした。それが豊富温泉ふれあいセンターだ。さてどんなお湯だったでしょう。
豊富温泉ふれあいセンターへの道
利尻島とようやくご対面
この旅では北海道の起点を稚内空港でなく旭川空港とした(飛行機代の都合)。初日はしょさんべつ温泉に宿泊、2日目にてしお温泉夕映へ立ち寄り入浴した後、さらにオロロンラインを北上するところから話が始まる。天塩町でいったん国道を離れ、海沿いの道道106号へスイッチ。
どんより曇った空がほんの少しだけ明るくなってきたようだし、さすがにこの位置まで来れば利尻島がはっきりわかるようになった。利尻富士はすっぽり雲の中だけどね。ちらほら見えるエゾカンゾウと利尻の島影を記念撮影しよう。
このあたりは風力発電の風車がたくさん並んでいる。天気が良ければ利尻富士を望む海、可憐な花を咲かせる草地、ひたすらまっすぐに続く道路、そして風車。絶景ドライブってやつですな。天気が良ければ。
北緯45度の向こう側
しばらく走ると北緯45度モニュメントなるものが現れた。この形が何を意味しているかは知らんが、もしかして斜めに傾いた角度が45度で北緯に引っかけている?
モニュメントからすぐ近くに屋根付きのシェルターがあった。他と違ってそこだけが防護された状態だから、常時必要なものではないだろう。吹雪いてどうにもならない場合に一時避難して収まるのを待つって感じか。海風をもろに受ける場所だからね。
その後はサロベツ原生花園を見学した…詳細は別記事に譲ります…さあもう豊富温泉へ向かっていい頃だ。原生花園から現地まで約20分。ふれあいセンターで入浴してから旅館へ移動すると、ちょうどチェックイン受付が始まる時刻になりそうで都合がいい。
まずは一般用浴場を体験する
2つの浴場に入れます
ふれあいセンターの駐車場は、まだ満車を心配するレベルではないものの、結構たくさんの車やバイクが止まっていた。ふうん、人気あるんやねえ…玄関付近でごく短い時間観察している間にも、ちょいちょいお客さんがやってきては玄関前で記念撮影していく。自分もだけど。とにかく観光客の出入りは多そう。
では入館。券売機で入浴券を購入し受付に渡す。510円。初めてですかと訊かれて「はい」と答えたら、いろいろ教えてくれた。一般用浴場と湯治用浴場の2個所があり、後者の方がぬるめでゆっくり入るスタイルだと。自分の好みにジャストミートじゃないか、湯治用をメインにしようっと。念のため「両方入っていいんですか」と確認したらOKとのことで、よっしゃ、やったるで。
廊下の途中で左に折れると一般用、右に折れると湯治用だったっけな。記憶あやふやで自信なし。まずは軽いジャブのつもりで一般用へ。
明るいベージュの熱めの湯
脱衣所手前に100円リターン式の貴重品ロッカーあり。脱衣所の人口密度と脱衣かごの埋まり方がなかなかの水準で、浴室内の混雑を予感させた。
分析書をチェックすると「含ヨウ素-ナトリウム-塩化物温泉、高張性、弱アルカリ性、温泉」であった。この旅で入った温泉は「含ヨウ素」ってのが多いな。おそらくは加温のみで加水・循環・消毒なしじゃないかと。
浴室内は予想通りに客多し。早くもプ~ンと石油くさ…くないぞ。意外と普通な感じだな。21台のカランが並ぶ洗い場から、いよいよ内湯浴槽へ挑む。床の上は析出物が固まってできた凸凹に覆われているが、よくある千枚田模様とは少し違う。
10名サイズの浴槽を満たすお湯は完全に濁っており、明るいベージュというか、黄土色に白を加えたような色をしていた。浸かった体感は熱めの適温。肩までしっかり沈めている人は少なく、段差の部分を利用して下半身だけ浸かっているような姿勢が多いのはそのためか。
ダイレクトに石油を連想させるかどうか
石油の温泉といっても石油そのものではないから、お湯がべっとりネチョネチョしているわけではなく、感触はまあ普通。湯面を斜めから覗き込むと光の当たり具合で、コーヒーに微量加えたクリームのように、白っぽい油膜風の塊が浮いているのがわかる。数センチの小さなものでポツポツ点在する程度の量だけど。
湯の花の存在ははっきりわかる。数ミリ級の木くずのようなものがあちこち漂っている。では匂いを嗅いでみよう…うーん、石油っていう感じじゃないな。ガソリンや灯油のような刺激臭を勝手に想像していたが予想は外れた。木材臭・鉱物臭・インク臭・ゴム臭・焦げ臭・薬剤臭のいずれでもない、あまり記憶にないやつだ。強いて連想を当てはめるなら「土ぼこり臭」あるいはカビっぽい「古本臭」かな。刺激は意外と小さい。
しかし後日ネットで調べると、麦茶に近い暗めの色をしたお湯だったり、浮いてる油膜は自分が見たものよりはるかに量が多かったりするようだ。茶色い海に浮かぶ油膜の流氷群みたいな。そんな写真が見つかるのだ。強烈に石油臭いと思わせるコメントが書いてあったりするし。
もしその写真やコメントの通りなら確かに「石油の温泉」だ。温泉はコンディションが日々変化する生き物だと思えば、自分が訪れた当時はお湯がおとなしい日だった可能性はある。
湯治用浴場にもチャレンジしてみた
湯治向きのぬるい設定
おっと。まだ軽いジャブだった。一般用浴場を短時間で切り上げて、お次は湯治用浴場へ。こちらにも貴重品をしまえるロッカーがある。脱衣所の分析書を眺めた限りでは一般用と同じ源泉のようだ。
浴室は地元民と湯治民と温泉マニアでぎっしり、かといえばそんなことはなく、むしろ一般用よりも人口密度は低い。自分を含めて最多で3~4人。
こちらのカランは7台。そして奥の左側に5名サイズ、右側に2名サイズの浴槽がある。まず左の方へ入ってみた。うん、ぬるいですね。これなら長湯が可能なので湯治目的にはぴったりだ。個人的には「ぬる湯が好きだから」という理由で長湯してしまうが。
明るいベージュ・少量の油膜・木くず風な湯の花・土ぼこり臭といった特徴は一般用と変わらない。匂いについて補足すると、最初のうちは「意外と刺激が弱めで尖ってないなあ」と思っていても、何度もくんくん嗅ぐうちに「オエッ」と胸焼け気分になってくる。一線を越えるとクラっとめまいを覚えそうな怖い予感がしたから、なめてかからない方がいい。
評判の効能を実感した件
右の浴槽も同じようなものだった。温度にも違いはない。壁から蛇口が生えているけどもちろんいじってはいけません。小さい浴槽だから、自分がいる時にあえて隣にやってきて窮屈な状態を作り出す者はなく、独占状態になりやすいのが利点か。
本命と見定めた湯治用浴場で左右の浴槽を行ったり来たりしながら30分。一般用とあわせて小一時間は体験した。もう十分だろう。通常は出る際にシャワーで温泉を洗い流さない派だけど、さすがに豊富温泉はやばいかと思ってシャワーで軽く流してから出た。
根拠も因果関係も確認せず印象だけで言うと、このところ身体のあちこちのかゆみに悩まされていて、旅行中もやっぱり変わらなかったのに、豊富温泉に入った後~翌日午前だけはピタッとかゆみが収まった(残念ながら翌日午後からまた復活)。奇跡の温泉が発動したか?!… 参考までに。