ニュルニュル硫黄泉が待つ素朴系の宿 - 寸又峡温泉 朝日山荘

寸又峡温泉 朝日山荘
2022年ゴールデンウィーク後の最初の遠征は、大井川流域の寸又峡へのグループ旅行。周辺には吊り橋・ダム・ローカル鉄道などの見どころがあるし、いかにも山深い秘境感を味わえそうなロケーションで楽しみだ。

そして好都合なことに寸又峡には温泉もある。あちこちの温泉を体験してみたい身として、いずれ必ず行ってみたいと思っていた。今年のグループ旅行をみんなで構想する機会があった際に、個人的な希望ですが…と寸又峡行きを提案してみたところ、あっさり承認されて実現の運びとなったのは実にめでたい。

そんな2泊3日の旅の初日にお世話になったのが朝日山荘。当時のお湯は容赦なく熱かったがクオリティは間違いない。加えて隣の町営露天風呂にも入れる。

寸又峡温泉「朝日山荘」への道

休憩拠点におすすめのKADODE OOIGAWA

朝早く首都圏某所に集合したメンバー一同。車に乗り込み、雨の新東名高速を下っていく。旅行期間中スカッと晴れないことは天気予報でわかっていた。どんより曇りは覚悟の上。せめて雨が降らないことを祈ろう。

沼津あたりまでは雨というか雲の中に入ってしまってやばい感じだったが、次第に西の空に明るさが見えてきて、島田金谷ICを出た頃にはどうにか降り止んだ。ICのすぐ近くにあるにぎわい拠点「KADODE OOIGAWA」でいったん休憩。道の駅みたいな施設だ。

ここは大井川鉄道・門出駅に直結しており、大井川鉄道は観光用にSLを運行していることもあって、蒸気機関車が展示されている。本来なら車両の下に潜り込んで眺める仕掛けがあるはずだったが、この日は立入禁止措置が取られていた。
KADODE OOIGAWAの展示機関車
鉄道に詳しいメンバーによれば、五和(ごか)駅を合格駅に改称し、その隣に門出駅を新規開業したらしい。合格と門出で縁起がいいってわけだ。

山奥の秘境に現れた温泉街

休憩を終えてあらためて門出した我ら一行は、続いて機関車トーマスを見学したり、絶景ポイントとされる奥大井湖上駅の展望所に立ち寄ったりし(詳しくは別記事にて)、これにて初日の行程はコンプリート。あとは寸又峡温泉に行くだけ。

大井川を離れて支流の寸又川を遡上する道路に入ると道幅がすいぶん狭くなって山奥感・秘境感マシマシ。こいつはやばい。※ただし翌日、井川~畑薙の方へ行ってみたらもっとすごかった

山とV字谷と川しかなくて人の住んでる気配がないところをずっと走って心配になってきた頃に温泉街へ到着。ある程度開けた土地に旅館・民家・カフェ・公園などが集まって人里を形成していた。ああ良かった。


まさしく素朴な山荘

町営露天風呂も管理している模様

朝日山荘は里の一番奥の方にあった。坂の入口に「車両進入禁止」の立て札あり。しかし坂を上らないと旅館の敷地に到達できないし、坂の下から敷地を見上げると車が1台止まっていた。宿泊客はOKなんだろうと推測して坂をちょっとだけ上がって→左折して敷地に入り→その車の隣に止めた。

坂を直進すると町営露天風呂があるようだ…ん?…露天風呂の入口手前で我々の様子を観察していたおじさんが近寄って話しかけてきた。どうやら当宿のご主人で、露天風呂の管理も兼任しているらしい。宿泊者であることを告げてチェックイン手続きへ。

外観・館内とも素朴でいささかゴチャっとした雰囲気はまさに山荘と呼ぶにふさわしい。優雅に整った風情や小洒落たモダンスタイルを求めると方向性が違ってしまうだろう。ロビーはこのような感じ。
朝日山荘のロビー

広い部屋になっててラッキー

案内された先は広々の16畳和室。予約した部屋からアップグレードしてくれてた。ありがてえ。布団は夕食時に敷いて朝食時に上げてくれる方式。
朝日山荘 16畳和室
シャワー付きでないトイレと洗面台あり。金庫なし、空の冷蔵庫あり。WiFiあり。贅沢を言えばキリがないが管理状態や居住性にとくに難はなかったと思う。浴衣は結構大きめ。部屋の扉がかたくなってて開閉に力がいるのはご愛嬌。鍵をかけるにもコツがいる。窓の外はこのような感じ。
窓から見える景色
ガラス窓にスマホを押し当てて撮影したら網戸が写り込んでしまった。


ヌルヌルの硫黄泉が強い印象を残す

入浴時間の自由度は限られるから、よく考えよう

風呂に入れる時間帯が狭く限定されていたのはコロちゃん対策であろうか。まず夕方は利用できない。夜は我々の組が19時40分~20時30分、その後が別の組に割り当てられていて、初日はこれでおしまい。翌朝は組分けなしの7時~9時まで。あんまりたくさん入れないな。

宿泊客は町営露天風呂を1回だけ無料で利用できる券がもらえるので、チェックイン直後には町営露天風呂へ行ってみた。普通は入浴料400円。
隣の町営露天風呂
男湯の脱衣所には鍵付きロッカーあり。分析書には「単純硫黄温泉、低張性、アルカリ性、高温泉」とあった。寸又峡温泉はどこも加温・循環・消毒ありのようだけど(集中管理?)、入ってみたらそんな感じは全然しなかった。

個性あるお湯で「温泉に入った」満足感は高い

名前の通りに中は露天風呂がひとつだけ。カランは4台、うちシャワー付きが1台。シャンプーや石鹸の類は置いてない。「石鹸を使わない方がよろしいでしょう」なんていう張り紙がしてあったりする。主役たる丸い形の岩風呂は8名規模とみた。

お湯の見た目は無色透明だけど薄緑ぽいような気もする。浸かってみたら適温で、慣れてくればそこそこ長く入っていられる…と思ったら、ある時点から急にジンジンと熱さが高まってきた。実際の温度が上がったというよりは体感的な印象の問題でしょう。別のメンバーも同じ感想だった。温泉効果かな。

はっきりした特徴が他にもある。まずヌルヌルがすごい。ニュルッというべき感触。こいつは体験してきた中でも上位に入るんじゃないかな。肌にすんごい良さそう。あと湯の花。細かい粒子どころか目立つ大きさの綿みたいなやつがいっぱい漂っていた。そして硫黄香。甘い感じからタマゴ臭へ移行しかかっている段階の匂いだ。いかにもな温泉らしさがいっぱいで満足度は高い。

1回と言わずもっと入りたい感じ

湯口のところには「飲泉できません」と書いてある。うーん、なんか飲むと体に良さそうな気がしてきちゃうよね、特徴的に。

集落の端に位置するとはいえ、ばっちり囲いでガードされていて眺望はない。しかし立ち上がると旅館前の坂や隣の水路が見える。下の写真は翌朝に宿の入口付近から同じ方向を撮ったもの。
町営露天風呂・朝日山荘前の坂道
いや~なかなか結構なお風呂ではないですか。無料券の1回だけだと物足りないくらい。だからといって有料覚悟で2度目3度目にチャレンジしたわけではないが。

旅館の内湯はかなり熱め

旅館の内湯には夜の割り当て時間と、朝7時からごく短時間(朝食が7時半なので)と、朝食後の8時台に入りに行った。こちらは脱衣所・浴室とも3名までというくらいの規模感。

浴室内にカランは3台。もちろんシャンプー類やボディソープあり。浴槽も3名規模で湯口は主副2箇所あった。お湯はオーバーフローしており源泉かけ流し感を味わえるうえ、床がヌルヌルで覆われて滑りやすくなっているので注意。

露天風呂との違いは温度。こちらの方がかなり熱い。まったく入れないわけではないにせよ、水で埋めないと厳しいんじゃないの、これ。その分、温泉パワーがガツンと来ますけど。明らかにあつ湯好き向けのチューニングだ。

翌朝はいくらか入りやすい温度になっており、最後に入ったときはかなり適度な具合まで下がっていた。こうして何度か入浴するうちに肌がやたらとスベスベになった。ヌルヌル効果のおかげだと思う。


寸又峡に抱くイメージに合った食事

猪鍋を中心に山里らしい料理が並ぶ夕食

朝日山荘の夕食は18時。準備ができると部屋まで知らせに来てくれ、食事用の大広間へ移動する。各組のテーブルは十分に距離を取ってある。夕食は通常の鴨鍋に代えて猪鍋プランで予約していた。スターティングメンバーがこちら。
朝日山荘の夕食
おっさん連中にはうれしくなってくる食材の数々。山菜、ヤマメ、鹿刺し、そばなど。こういうのがいいんですよ。と、ビールを飲みながらつまんでいく。

猪鍋も大変結構ですな。濃厚な肉の味に負けない濃厚な汁がたまらない。野菜たっぷりだしボリュームは十分だ。今後のグループ旅行はいつ・どこへ? といった話題とともに箸が進む。気がつけばずいぶん腹がいっぱいだ。そこへ出てきた締めご飯がとんでもない量で食べきれません…。雑炊にするというアイデアを女将さんにいただいて雑炊を作ってみた。うむ、濃厚な汁が合うぜ。

もうお腹パンパンでございます。すっかり満足して部屋へ引きあげていった。

オーソドックスな朝食

朝食は7時半。朝風呂の開始が7時なので両立を狙うとちょっとせわしない。朝食も準備ができると部屋まで知らせに来てくれ、同じ大広間の同じテーブルへ移動すると、オーソドックスな和定食が並べられていた。
朝日山荘の朝食
卵は温泉玉子である。パカッと割ればいいものを、うっかり惰性でゆで卵の殻をむくモーションに入ってしまい、いろいろと難儀なことになった。習慣の無意識の動作はおそろしい。

ゆうべご飯を盛大に残してしまったせいか、朝の米の量は加減されていた。おかわりするメンバーがいたりしつつ、まあまあいい具合に消えていった。

 * * *

寸又峡にラグジュアリー感を求める人はいないだろうから問題ないと思うが、朝日山荘は気さくな対応を含めて、気取らない宿・素朴な宿を指向する人向けといえる。温泉の質はいいと思う。もっと幅広い時間帯で入浴できるとなお良かったが、まあ贅沢は言うまい。

「奥大井の秘境に来たぜ」気分によくマッチする宿で、ある種の達成感が倍増したのであった。