一人旅の強い味方は今も - 下諏訪温泉 三代目おくむら旅館

下諏訪温泉 三代目おくむら旅館
料理と心配りに定評のある下諏訪おむくら旅館にかつて泊まったことがあった。いい宿だったな・またいつか行くことがあるかな、と思っているうちに経営が引き継がれて「三代目おくむら旅館」として新しいスタートを切っていた。今はどうなっているんだろう。気になる。

ちょうど旅行を計画した日程で予約を取れる状況だったため再訪してみることにした。いや、三代目に変わったんだから初訪問というべきか。下諏訪駅から歩いても大してかからないロケーションなのも決断を後押しした。今回は気合いゼロのだらけたノリでいきたかったので。

そのノリで滞在するのにぴったりの雰囲気である(旅館側は秘密基地という表現を用いている)。温泉は熱すぎず程良し、メイン料理は桜鍋から猪鍋に変わっていたけどうまかった。

三代目おくむら旅館への道

かの御湖鶴酒造が近い

三代目おくむら旅館はJR中央本線・下諏訪駅の真北くらいをイメージしておけばよい。徒歩で10分もかからない。国道20号を渡るあたりで行程の半分といったところ。諏訪大社下社秋宮や古い宿場町の風情が残る旧中山道が散策圏内だ。春宮や万治の石仏へもまあ歩いていける。

自分は気合いゼロだから頑張りません。温泉のことだけを考えて遊泉ハウス児湯に入浴した後はもうやることがない。さっさと旅館に入ってもいいがチェックインは16時からでまだ少し早かった。そこで酒に走ることにした。

まずネットで評判を知って興味のあった御湖鶴(みこつる)酒造さんへ。下諏訪で唯一の酒蔵だそうだ。おくむらからも程近い。
御湖鶴酒造
中に入ると御湖鶴ブランドの大小たくさんの酒瓶が陳列されている。もっと奥に見学ブースが続いているようだが予約制みたい。あとは解説ビデオを流していたりする。ということで陳列を眺めて、ぼっちおじさんでも飲み切れる量の辛口純米酒と地酒ケーキを購入。

湯あがりにクラフトビールを

続いては、風呂あがりのビールが飲みたくなっちゃったな。グーグルマップで調べたらすぐそばにクラフトビールを飲めるお店がありました。駄菓子とビールと珈琲のお店・ちいとこ商店→早速ゴー。
ちいとこ商店
カフェ&バー、かつ駄菓子も売っている不思議な雰囲気の店内。単なるレトロとか素朴感だけではない、どことなく都会的な軽妙さと若い世代のセンスが感じられる。Z世代的な(意味は知らない、言ってみたかっただけ)。

この日は柑橘系アレンジのビールを中心に提供されており、そのうちのひとつを飲んでみた。ビールの苦味の後にみかんの皮のようでもありグレープフルーツのようでもある苦味がやって来る。へー、自分の知らない世界だけど面白いね。調子に乗って別の銘柄にも手を出してしまった。鉄道のテキトー旅だとこういう気軽に飲める自由があるのがいいよな。


以前の面影を残す館内

さて、16時を回ったのでいよいよ三代目おくむらへ向かう。現地に着いたらいろいろ記憶が蘇ってきた。おーこんな感じの建物だったな。のぼりやのれんは新たに増えたかも。

玄関をあがってすぐの談話室…以前は朝食後にコーヒーを飲めた場所…は諸事情により休止中。そこから奥の浴場へと至る1階のつくりは以前と大きく変わっていない気がした。自信はありません。そして応対に出てこられたご主人と女将さんは、おお、たしかに三代目というべき世代交代だ。物腰柔らかく丁寧な対応が印象的。

案内された部屋は2階だった。2階には初めて足を踏み入れるから以前との比較はできない。入室すると2畳分の控えの間のようなスペースに続いて6畳間+ベッドスペースがあった。こういう“おひとりさま”がまったりできそうな雰囲気は嫌いじゃない。
三代目おくむら旅館の客室
トイレ・洗面は共同。1階にもあるし2階にもある。2階男子トイレについては小×2・シャワートイレの個室×2。宿の規模からして十分であろう。金庫なし、冷蔵庫なし(1階廊下に共同の冷蔵庫を発見、ただしコンセントを抜いてあった)。WiFiあり。窓の外はこのような感じ。
窓の外の景色
街道筋の町並みの中だから、ものすごい大自然の絶景が見える!とかを期待するものではない。当宿に求めるべきはそこじゃない。


アットホームな浴室に本格温泉

1組ずつ利用する感じでちょうどいい規模

さっそくお風呂に入りましょう。1階の奥に男湯と女湯がある。その手前に部屋別の貴重品ボックスと地酒を飾ったコーナーを発見。我らが御湖鶴もありますな。
貴重品ボックスと地酒展示のコーナー
この背後に「図書室」と書かれた扉があって、開けてみたら部屋ではなくて書棚だった。以前は廊下に置いてあったコミックをこの中に収めている模様。作品のタイトルは入れ替わっているかも。

男湯は大浴場というほどの広さではなく、おそらく1組ずつ利用する疑似貸し切り制のような運用に自然となるんじゃないかな。この日はいつでも空いてて超余裕。

大変な手間をかけて提供されている温泉

脱衣所に以前見かけた江戸時代の温泉番付表(小結が諏訪のやつ)や恋札占いの説明はなくなっていた。そして分析書には「ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉、低張性、アルカリ性、高温泉」とあった。旦過第一源泉+第二源泉の混合泉とのこと。字面上は熱そうなイメージ。

浴室のどこがどう変わったかの細部まではわからないが、思い出の印象からそんなに違ってはいない。カランは4台。右奥に角丸な四角い浴槽がひとつ。大きさは3名分くらい。仲間同士なら4名までいけるかもしれない。湯口や壁の手すりには白い析出物がうっすら付着している。

無色透明のお湯が湯口からチョロチョロと注がれ、縁からあふれ出ていた。循環なしのかけ流しだと思われる。豪快なザバザバでなくチョロチョロなのが、かえって源泉を大事にする湯使いを感じさせる。そういえば「湯船にお湯を張るのに4~5時間かかります」という説明書きがあったな。そりゃあ大変だ。

熱すぎず、入りやすいお湯がGood

旦過というワードから熱いの覚悟で浸かってみたら、熱めではあったけど激熱ではなかった。まあまあ適温の範疇といえる。湯の花や泡付きといった目に付きやすい特徴は見られず。匂いを嗅いでみたところ、ちょっと焦げっぽさを連想させた。硫酸塩泉らしいと言えばいいだろうか。気づけば指先は一瞬でしわしわに。ふぅぃー効くぅー。

夕方と夕食後に入った時は熱めだった。翌朝また入ってみたところ、なんかぬるくなった気がする。それとも体が慣れたのか。ぬるいの好きだからありがたいですけどね。おーこりゃいいや。アットホームな浴室の湯船の中でひとり悦に入ってしまった。

お風呂は朝9時まで。朝食後に急いでラスト風呂へ行ったら、やっぱり前日よりもぬるかった。浴槽の一角にあるパイプ(?)から結構な勢いでお湯が排出されていたのは、お湯抜きが始まっていたのかな。このあと全部お湯を抜いてから掃除して再び4~5時間かけてお湯を貯めるのだろうか。こりゃあ大変だ。


自慢の料理に舌鼓を打つ

御湖鶴と猪肉の信州焼き味噌鍋を楽しむ夕べ

楽しみにしていた夕食の時間が来た。準備ができると部屋に電話で知らせてくれるので1階へ。元客室を利用して個室食で提供してるみたい。で、案内された個室は…なんと、以前泊まった部屋だった。間違いない。予想外の再会だ。

テーブルの上には主なメニューがすでに用意されていた。主役は信州焼き味噌鍋。本来は馬肉の桜鍋になるところ、馬肉の入手が難しい状況とのことで猪肉が使われていた。肉にあらかじめ熱を通してあるのは、その方がおいしくいただけるんだそうだ。へー。
三代目おくむら旅館の夕食
お酒はやっぱり我らが御湖鶴。辛口の中にフルーティーあり。それ以上の細かい描写はできません。信州らしさを際立たせる馬刺しや鯉唐あんかけをつまみにぐいぐい飲めちゃう。酒もつまみもうめえ。

細かいうんちくを垂れることはできないが主役の味噌鍋もうまい。くどくなるところがないから箸が進む。満腹感が後からやって来て、ふと気づくとお腹が苦しくなっている。締めの炊き込みご飯を2杯ほどいただいてデザートで終了。炊き込みご飯を残してもったいないけどもう入りません。

御湖鶴は300ml瓶を全部飲み切れず、部屋に持ち帰ってちびちび飲み干した。

朝食を珍しくあっさり完食してしまう

朝食は楽しげなスタイル。三目並べの盤面みたいに仕切られた箱に9つの小鉢が並んでた。そのうちのとろろだけでご飯いけそう。
三代目おくむら旅館の朝食
別皿に用意された焼き鮭と玉子焼きが分厚くてでかい。ご飯の量が多いかなと心配だったのがまるで嘘のように、これらのおかず群であっさり完食してしまった。しかも30分かからずに。食の細い自分にしては信じがたいハイペース。まさかやー。

おかげで時間に余裕ができ、部屋に戻って朝ドラを観てからラスト風呂という理想的な展開に持ち込むことができたのであった。

 * * *

三代目おくむら旅館は「一人旅にも居心地の良い宿」を継承してくれているのがありがたい。温泉でまったりと。部屋でまったりと。食事はたっぷりと。15時から入ってだらだらできればなお良いが、そこは風呂事情優先でかまわない。

次の御柱祭までにまた来ることがあるかもしれないね。その時は御湖鶴と桜鍋の組み合わせを試してみたいものだ。