時代を超えて入り継がれる激熱の湯 - 那須湯本温泉 鹿の湯

那須湯本温泉 鹿の湯
那須湯本温泉といえば江戸時代の温泉番付で東の関脇の座(上から2番め…当時は横綱位がなかった)にあった由緒ある温泉だ。前々から気になっていたので週末を利用して行ってみることにした。

那須湯本といえば有名なのが「鹿の湯」。素通りなどあり得ないというほどの、ご当地の顔である。もちろん立ち寄らせてもらいました。

春先の週末だったこともあって、とにかくにぎやか。意外にもたくさん来ていた若者が放つ熱気と昔ながらの鄙びた建物とのギャップがなんとも不思議感覚であった。白濁硫黄泉のお湯はさすがにすばらしいのひと言です。

那須湯本温泉「鹿の湯」へのアクセス

ある意味で役に立ったビジネス書

前回の伊豆旅行を終えて、次の温泉旅行は1ヶ月後の予定だった。それまではおとなしくしているつもりだった。

ところが「ジャック・マー  アリババの経営哲学 携書版」(張燕編著、ディスカヴァー携書、2019)というビジネス書を読んでいたら、あらぬ方向にエンカレッジされてしまい、やってやるぜと急きょ那須へ行く志を立てたのである。

ちなみにアリババの創業者ジャック・マーの中国名は馬雲。三国志の馬超と趙雲を合わせたみたいでかっこいい。

それはともかく、行くと決めたからには「遊びすぎ」とか「散財しすぎ」とか、他人がなんと言おうが気にしない。自分は正しいことをしているのだから。と馬雲の名言をパクって自身に言い訳しつつ行動を開始した。

高速バスで直行可能

今回は車なしの一人旅。那須塩原駅まで新幹線などという贅沢はできないので、行きは高速バスを利用した。那須湯本温泉街まで乗り換えなしで運んでくれるから便利。鉄道を利用する場合は那須塩原もしくは黒磯駅まで行って路線バスに乗る。

那須高原を走るバスの車窓から目に入るお店の看板は軒並みこげ茶色で統一されている。コンビニの看板まで茶色いのだからずいぶん徹底してるな。

一軒茶屋というバス停を過ぎると、つづら折りでぐんぐん高度を上げていき、麓の洒落たリゾート地とは一線を画す、いい意味で垢抜けない雰囲気を醸し出してきた。そうして那須湯本のバス停に到着。降りた目の前は観光案内所。早くも硫黄臭がするんですけど。

ここから鹿の湯は遠くない。向かいの駐車場から標識に従って遊歩道のような階段を下りていくと湯の素採取場があった。
湯の素採取場
続いて小さな川にかかる元湯橋を渡ると鹿の湯に到着。薄日が差しながらも小雪がちらついてきた。
元湯橋

多くの客を引き寄せる名湯・鹿の湯

予想通りに芋洗い

混んでるんだろうな~と覚悟して入館すると、やっぱり混んでいた。靴箱にたくさんの靴が収まっていたし、人の出入りが頻繁にある。あーやっぱり混んでるか。めげずに500円を払って男湯へ向かう。

外観と同じく中もかなりの鄙びっぷり。こういうところは脱衣所もごく素朴なんだろうからと、タオル以外の荷物と貴重品をロッカーに入れた(有料)。廊下には温泉番付とともに相当古い分析書が貼ってあり、「含硫化水素酸性明礬泉」と書いてあった。

予想通りにごく素朴な脱衣所から風呂場の中をチラ見すると…うわあ人人人。久しぶりの芋洗いだな。わかってて来たのでしょうがないと腹を括った。ここには新しめの分析書が掲示されており、「単純酸性硫黄温泉(硫化水素型)」とあった。

危うい魅力の硫黄臭

硫黄の腐卵臭に包まれながら風呂場へ。現代の感覚でいうなら洗い場はない。温泉をそのまま流し放しにしているホースだかパイプだかから出てくるお湯を体にかけるくらいしかない。石鹸・シャンプーは使用禁止だ。

その隣には熱い温泉を溜めたかけ湯槽があり、たしか48℃って書いてあった。ひしゃくで頭に200回かけろと書いてあったが、その通りにやる人はいないし、試しに一瞬だけ指先で触れてみたらさすがに激熱。こりゃあ無理だ。

その奥にレトロすぎる木の浴槽が2×3列並んでいた。それぞれは、混んでるから4名ずつ詰めて入らなきゃしょうがないよねってくらいの大きさ。手前の列の2箇所が41・42℃、真ん中の列が43・44℃、奥が46・48℃。48℃槽があるのは男湯だけのようだ。

高温槽が一種の目玉になっている鹿の湯だが、自分はぬる湯好きなので手前の列だけで十分。運良く余地のあった42℃槽にもぐり込んだ。見事に白濁したお湯は腐卵臭を通り越して、焦げたタイヤのような危うい刺激を孕んでいる。こいつは強烈だ。

激熱槽への挑戦者たち

観察したところ、43℃槽が中にもまわりにも人が群がって一番混んでたかな。46℃槽には常連らしきお年寄りが出たり入ったりを繰り返している様子。その体の表面は茹でたエビやカニのように真っ赤になっていた。

48℃槽は誰もいないことが多い。その他は常時3~4名。浴槽の外で休憩している(狙った浴槽が空くのを待ってる?)人も多数。場所が場所だけに常連のお爺さんみたいな人ばかりかと思ったら、グループで来ている若い観光客が結構多い。

怖いもの知らずの若者たちは果敢に46・48℃槽に向かっていった。足だけ突っ込んですぐ引っ込めるとか、そういう感じだったけどね。ありゃ無理だよ。自分はとても行く気がしない。

短時間でも実感できる「こってり湯」

やがて空きができた41℃槽へ場所を変え、しばらく堪能してから話の種に44℃槽にちょっとだけ浸かって、再び42℃で最後の仕上げ。長湯してないのに移動の際には立ちくらみがしたから、やっぱり濃ゆいんだね。いきなり指先はしわしわになるし肌の感じが普通じゃなくなってたし。

滞在時間は長くはなかったけど強い効き目を実感して鹿の湯を出た。いやはや、食べ物にたとえるとウニやあん肝に通ずる濃厚なこってり感だったな。ここは鄙びた静かな湯治場というより、老いも若きも入り乱れる雑踏の中を立ち回るイメージ。その意味でもこってり。

そして自分には無理だったが、もしあつ湯が大丈夫な体質なら46・48℃槽に挑戦してみるといいだろう。「かなり熱いので、入浴中のお客さんのため、入る際は波を立てないように」と注意書きしてあるくらいだ。心してかかられたい。


おまけ:那須湯本温泉の観光スポット

妖気を放つ殺生石

鹿の湯を出て山の方へ少々歩くと温泉源があった。
湯本温泉源
さらに進むと殺生石なるスポットへ続く木道になる。このあたりはいわゆる温泉の地獄地帯ってやつかな。赤茶けた岩がごろごろ転がってた。
殺生石遊歩道
途中にあった千体地蔵に手を合わせる。
千体地蔵
5分もかからず殺生石に到着。しめ縄をしてある岩がそうだ。九尾の狐の妖怪伝説と関係があるらしい。そう思って見るせいか妖気を感じなくもない。
殺生石

その名も温泉神社

殺生石から温泉神社(ゆぜんじんじゃ)へ続く道があった。裏から入る形になるのでいきなり拝殿に着く。
湯泉神社
あとは参道を逆に進む。途中にある御神木のミズナラは「生きる」と命名されている。
湯泉神社の御神木
社務所の近くに「これが君が代に歌われる『さざれ石』です」と説明された石があった。えっ、そうなの。…ああ、歌詞が具体的に指し示す個体がこれなんじゃなくて、歌詞に出てくるさざれ石という種類の石はこれですっていう意味ね。
さざれ石
神社の入口そばには「こんばいろの湯」なる足湯がある。当時は清掃中だった。
こんばいろの湯
バス停前にあった最初の観光案内所はすぐそこ。観光案内所~鹿の湯~殺生石~湯泉神社と回ってまた戻ってきたわけだ。入浴込みで1時間ちょっとのコース。このあと旅館の風呂にも入るから、間隔を開けたくて鹿の湯を先にしたが、そうでなければ逆まわりコースで最後に鹿の湯へ入浴する方が自然かもしれないね。