天下の奇祭! 湯谷温泉の花まつりにびっくらこいた

湯谷温泉 花まつりの鬼さん
愛知県奥三河の湯谷温泉で毎年行われる、春を告げる天下の奇祭「花まつり」。温泉一人旅で湯谷温泉を訪れた日がちょうど開催日だった。まったく何の予備知識も持たずに来たので、現地に着いて初めてその存在を知った。

無知とは恐ろしい。花まつり→花がいっぱい飾ってある展覧会→寒い時期にやるとは珍しい→梅か、椿か、河津桜じゃないよな…なんて、のん気に想像を膨らませていたおじさん。んなこたぁない。

一種の花見のつもりで出かけたら全然違った。まったく違った。なんとも形容し難い、天下の奇祭としか言いようがない。湯谷温泉よ、お主、とんでもないコンテンツを隠し持っておったな(隠してないけど)。

湯谷温泉街と花まつり会場

宇連川を望む浮石橋

湯谷温泉は豊橋から飯田線で約1時間。宇連川に沿って独特の地形が続く鳳来峡エリアにある静かな温泉地である。湯谷温泉駅で下車して、今宵の宿「はづ別館」へ入る前に、ちょっと周辺を散歩してみることにした。それが花まつりとのファーストコンタクトにつながるとはつゆ知らず。

駅前の案内図でコースのあたりをつけて、まずは浮石橋へ向かう。宇連川にかかる赤い吊り橋だ。そんなに大きく揺れることはないから大丈夫。
浮石橋
浮石橋の中央から下流方向を見る。奥の方は岩がモコっと隆起したようになっていた。馬背岩という名所だ。よーく見ると、岩の一部が階段状に削られているが、岩の上を歩けるようになってるのかね。
馬背岩
上流方向の景色は次の写真のような感じ。中央に滝状の落差が見える(湯谷大滝)。実を言うとこの景観は浮石橋からのものではない。付近の高台に薬師如来石像があって、そこから見た眺めだ。こちらの方が川面が遠くなる代わり、より全体を俯瞰した感があって良かったように思う。
湯谷大滝

突如現れた花まつり会場

駅前の案内図によれば、橋を渡った先から川に沿って遊歩道があるらしく、実際それっぽい入口もあるのだが、すっかり廃れた様子に進むのをためらってしまった。行っておけばよかったかな。でも後に旅館の露天風呂から対岸に見えた遊歩道は、倒木が道を塞いでいたりして、ちょっと微妙な状況ではあった。

別の舗装道を上流方向へ5分ほど行くと広場のような場所に出た。そこで見かけたのが「花まつり会場」の看板である。花まつりって何ざんす?…このときは疑問を軽くスルーして先へ。なお、この広場には各旅館へ配湯すると思しき源泉貯湯槽があった。
湯谷温泉 源泉貯湯槽
さらに上流方向へ行くと「鳳来ゆ~ゆ~ありいな」なる日帰り温泉施設を発見。結構規模感のある立派な建物である。駐車場の車の数は温泉街の静けさから想像されるよりもずっと多い。
鳳来ゆ~ゆ~ありいな

夜間に開催される花まつり

ゆ~ゆ~ありいなの先の橋を渡って線路のある側へ復帰。この橋から宇連川を覗き込むとこんな感じ。別名板敷川とも呼ばれる通り、川底の岩が板を敷き詰めたみたいに見える。
板敷川
再び駅まで戻って30分弱の散歩を終了。はづ別館にチェックインしたところ、部屋の座卓の上に「本日花まつり開催。20時~22時。長篠陣太鼓は21時半頃」と書かれた会場案内図が置いてあった。

さっき看板を見た花まつりか。なんだろうね。せっかくだから夕食後に行ってみるか。夜に花見なんて変わったイベントだな、ライトアップでもするのかな、なんて、まだのん気に勘違いをしているおじさんであった。


熱狂的な花まつりの舞い

3匹の鬼を取り囲む群衆

湯谷温泉花まつりとは、古くからこの地方に伝わる神事を、温泉街のイベントとしてダイジェスト版にして見せるものである。花見とは関係ない。今年は2月の毎週土曜日に開催していた。

21時過ぎ。はづグループの仕立てた送迎マイクロバスに拾ってもらい、昼間見たあの会場まで運んでもらった。おお、すごい人出だぞ。昼の閑散ぶりからは想像もつかないほどの熱気。地元の方や宿泊客に加え、これだけを見に来たナイト観光ツアーの客もいるようだ。

会場入口で甘酒をふるまっていたので、景気づけ&体を温めるためにいただいた。祭りはすでに佳境に入っており、会場の中央には焚き火で熱した鍋、そのまわりを3匹の鬼が舞い、それを半ば興奮気味の群衆が二重三重に取り囲んでいた。
鬼の舞い
解説のアナウンスによれば、赤鬼・白鬼・青鬼からなる3匹のうち、赤と白がつるんでいて青は嫉妬している関係だとか。キャラ設定が細かい。

見物客の醸し出す熱狂があたりを覆う。映画「男はつらいよ」シリーズにこういった祭りのシーンがよく出てくるのを思い出した。もちろん映画とここでは祭りの規模も動員人数も桁が違うけど、寅さんの世界観に自分が入り込んでしまったかのような気分だ。こりゃすげーわ。

福を呼ぶ鬼はヒーロー

やがて群衆がやけにソワソワし始めた。鬼たちもフィニッシュに向けて手に持った棒を構える。何? 何? 何が始まるの?
鬼の舞い クライマックス
ガサガサ…ガサッ・ガサッ・ガサッ! 鬼が棒を突き上げて、頭上にあった紙飾りを揺らして地面に落としていった。そこへ群衆がわっと飛びついて、地面に落ちたモノを我先に拾い集めていた。何? 何? 何なの?

どうやら落ちた中にコインが混じっているらしく、皆それを狙っていた。手に入れるとその年はお金に不自由しないと言い伝えられる種銭らしい。そんなに素敵なものなら自分も欲しかったけど完全に出遅れたな。わっはっは(悔し笑い)。

その後、鬼はヒーローインタビュー的な場所へ移動して、見物客との写真撮影に応じていた。鬼かっけぇー。

テホへの無限ループ

祭りは続く。鬼に変わって登場したのは若い男たち。独特のリズムと抑揚による「テーホへ、テホへ」の掛け声とともに舞う。周囲からも掛け声がかかり、会場は一体感に包まれる。
テホへの舞い
なお当方、弱小ブログとはいえ昨今のプライバシー保護の流れと無縁ではない。舞い手のみなさんを特定できないように、写真をある程度ぼかすべきじゃないか。いや逆に、祭りは当人にすれば晴れの舞台であり、むしろぼかすのは失礼だろう、堂々と発信すべきじゃないか。と迷ったあげく前者のスタンスでいかせてもらいました。

テーホへ、テホへ、テーホへ、テホへ、テーホへ、テホへ…結構長く続くね。相当ハードだ。だが解説によれば本来の本祭だと一晩中続くそうだ。まじすか。ぶっ倒れるぞ。

だからこそ舞い手はヒーローであり、かつては村娘たちの憧れの的だったそうな。村のジャニーズみたいなもんか。若い衆がこのポジションを目指して精進に努めるのも無理はないな。

福をばらまく、奇祭のクライマックス

やがてまた群衆がソワソワしだした。スマホを守れとかなんとか、アナウンスにも熱が入る。何? 何? 何が始まるの?
テホへの舞い クライマックス
舞い手が持っていた茶せんみたいなやつを中央の鍋に突っ込んだ。そして…含ませたお湯を周囲に向けてはね飛ばした! キャーキャー言いながら逃げ惑う群衆。まあ顔は笑っているが。

飛ばし方も次第にえげつなくなってきて、ドッジボールで敵陣にボールをぶつけるときのようなモーションで人の集まっているところを狙いすまし、力いっぱい茶せんみたいなやつを振り回し始めた。祭りの実行委員の人も加担して飛ばしてくるし、なんじゃこりゃあ。

湯を浴びれば幸運を引き寄せるということなんだろうけどね。実際のところ飛ばされるお湯はべつに熱くない。派手にびしょ濡れにされるわけじゃないし、一緒に盛り上がって、かけてもらうがよかろう。


勇壮なパフォーマンス・長篠陣太鼓

戦の激しさが現代に蘇る和太鼓

祭りは続く。今度は特設ステージで長篠陣太鼓が始まった。戦国時代に武田軍と織田・徳川連合軍が争った長篠の戦いをモチーフにした演目である。これがまた、勇壮でかっこいいのなんの。
長篠陣太鼓
ドンドコドンドコ、バンババン、ドンドコドンドコ…。和太鼓の重低音が夜空に響く。音だけでなく、チームワークにより統率された組織的な動きも見どころ。

4曲あるうちの3曲まで終わった。ここまでだけでも大したものだが、最後の曲はなんと、火のついたバチで叩くという。いやいや、サーカスじゃあるまいし、そんな危険なパフォーマンスをするわけが…ホンマや!
長篠陣太鼓 クライマックス
太鼓じゃなくて樽を叩くようなアクションだけどね。バチの火が樽に移ってオリンピック開会式の聖火みたいになる。もはや「花まつり」というメルヘンチックな名前では語れない。

意外性があって印象に残った花まつり

圧巻のパフォーマンスで祭りは終了。お疲れ様でした。

帰りに待機していたバスに乗り込むと、若干混乱した雰囲気があり、運転手が「これは県民の森行きです」と注意を促していた。おっと、違うところへ連れて行かれてしまう、まずいまずい。慌てて降りた。

歩く方が確実だなと思って帰りは徒歩で。10分くらいだから大したことはない。昼に歩いたのと逆まわりで、浮石橋を渡って旅館へと向かった。

いやー、えらいもの見ちゃったな。まさに天下の奇祭。この日を狙うも何も、まったくノーマークでいきなり体験しちゃったよ。坂本九の歌のように上を向いて星を数えて歩きながら(泣いてません)、祭りの余韻を噛みしめていた。

九ちゃんか。そういえば、宿の夕食のメインディッシュがSUKIYAKIだったわ。一人ぽっちの夜~。